護衛チーム短編夢

□Cuore Spezzatoー失恋
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「Cuore Spezzatoー失恋」

◆相手:ブチャラティ

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ブチャラティ:side




いつもだったら6人分の椅子が並ぶテーブルに
今日は4人のみ。
残りの2人はと言うと別の席だ。

なんで、隣にいるのは俺じゃないんだろうな…。

ミスタと向かい合った席で楽しそうな様子の彼女。

ーッ!

俺には見せたことのない砕けた笑顔に胸が抉られる。


ミスタと彼女が付き合ったのは、つい最近のことだ。
丁度、5日前の話になる。
俺とミスタにアバッキオの3人で何杯もの酒を飲み干していた時…突然ミスタが俺にいつになく絡んできたんだ。
名無しさんの事をどう思ってるんだと何回も聞いてくる。その時の俺は、大切な仲間だと思っているが…それが何だ?と返したんだ。
すると、「じゃあ俺が告白しても文句は言わねぇよな?名無しさんの事、俺は一目見た時から好きだったからヨォ」その言葉に俺は動揺を隠しつつも…
「それは知らなかったな…。」
「俺はてっきりブチャラティも名無しさんの事を好きなんだと思ったんだけどよぉ、俺の勘違いだったか?」
「あぁ…勘が外れたな」
とだけ言ったのを覚えている。

まさかあの時の言葉が本当で、
そしてすぐに実行に移すなんて俺は思っていなかったんだ。

「名無しさん、俺にも一口くれよ」

ミスタが自分の口を彼女に向けて開けている。
彼女は「え〜、私もこれ好きなのに」と返している。
「一口だけだからさぁ」ミスタの押しに彼女は渋々
ケーキを一口ミスタの口に運んでいる。

俺はその様子をただ静かに眺めている事しか出来ない。
ナイフとフォークを握る手に自然と力が入る。
本当は聞きたくもないのだが、耳を塞ぐ訳にも行かず
2人の会話ばかりが耳に入ってくる。

「なァ、名無しさん今夜は空いてんの?」
「絶対悪い事考えてる。ダメ!」
「なんでだよ。俺たち付き合ってんだろ?」
「付き合ってまだ4日じゃない」
「!!!」
「ふふ、4日目ね」
「2回言うな!縁起が悪いじゃねぇか!嫌がらせか!」

幸せそうな2人の談笑。
仲間に対してこんな感情を向けるなんて
思いもしなかった。

その場にいるのが耐えられなくなり、
俺は席を立つ。

「ブチャラティ、どうした?」

「ちょっと、用事ができたんだ。悪いな」

「俺たちに手伝えることはあるか?」

アバッキオの提案に首を振り
俺はリストランテを出る。

夜の空気を大きく吸い込み、
空を見上げてみる。
今日のネアポリスの空は星がよく見え美しい。
感傷に浸るには十分すぎた。






名無しさんがミスタの告白を受け入れたと聞いた時、
俺は実感が湧かなかった。
「ブチャラティ、あのね。私ミスタと付き合う事になったんだ!」
「そうか…。」
「ブチャラティ、でも大丈夫!任務に支障出さないから!」
「あ、ああ…。おめでとう」
嬉しそうな彼女の報告に俺は「おめでとう」としか言えなかった。

彼女がミスタと付き合い始めて2日目、
彼女とミスタの距離感に実感がよくやく湧いてきたんだ。
付き合ってれば当たり前の距離感だが、
俺の心を引き裂くには十分だった。

そして3日目、
彼女は俺に見せない
無邪気な心からの笑顔でミスタと話し、
抱きしめ合っている所を目撃したんだ。

胸の痛みが重くのしかかる。
彼女はもう1人の男のものだと、
心で理解した。

俺がもっと早く名無しさんに声をかけていたら、
違っていたんだろうか。
ーわからない。
俺がここでどう後悔しようが…

現実、名無しさんと付き合っているのはミスタで、
俺と名無しさんではないのだから…。

幸せそうな名無しさんの顔を思い出す。

そして決心を固める事にした。
俺はチームを率いていくと決めた人間だ。
彼女が幸せなら、それで良い。
どこの馬の骨かわからない男に取られるより、
俺の信頼する仲間が恋人になったんだ…。

それで、良かったんだ。


想いは断ち切ろう。


……

……



あれから、
俺はいつも通りに
何もなかったように振る舞っている。

名無しさんがミスタとたまに喧嘩をして
俺に相談をしに来たりする事もある。
ミスタはミスタで俺に名無しさんの事で
のろけたりもして来るが…

初めの頃のように心が揺れることもない。
自分の心に嘘をつくのが
上手くなったみたいだ。




彼女が幸せそうなのが、


俺の救いなんだ。

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