護衛チーム短編夢

□Come camminareー歩き方
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「Come camminareー歩き方」

◆相手:ブチャラティ

*絶望したヒロインが未遂をしようとするところからstart
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名無しさん :side




私は周りの喧騒を気にも止めず、
ここまできた。
私の眼下にはビルの屋上からみえるネオンで彩られた街並が広がっていた。
しかし、その輝きも今の色を失った心には届かない。

もう、終わりにしよう。
楽になってしまおう。

全てが嫌なんだ。
救いもない永遠の地獄を味わうくらいなら
消えて楽になってしまおう。

夜風が私の髪をはためかせる。

上司からの叱責、終わらない業務、理不尽な仕事の天秤はずっと傾き続け、その重圧を支えられるほどできた人間ではない。
そこに救いも平等さもない…

脳味噌だって麻痺していた。
ただ結果を出せなくては生きる価値すらないのだ。

私が死んで戸惑う人間が一人二人はいるのかも知れない。でも何事もなく明日は回っていく。


私がビルから足を投げ出そうとした時、
突然後ろから掴まれる腕。
すごい力で一気に引っ張られる。

私は屋上のコンクリに身体を打ちつけながらも引き留めた主を確認した。コンクリに叩きつけられた痛みよりもそこにいる男に目を奪われた。

見知らぬ男。
夜景の光が反射して見えた顔は、
美形…
服装に関しては奇抜な模様が入った…
いや、奇抜なデザインの服を着ている。

その男はひどく怒っていた。

「命を粗末にしてんじゃねーぞ!馬鹿なことをしてるんじゃねぇ!」

私はその瞬間ぶわっと涙が溢れた。
ポロポロと涙を零しながら、

「知らない貴方に何も言われたくない!だって…こうするしかッ!こうするしか幸せになれない!」

「とりあえず、こっちに来るんだ」

この男の人は何なんだ。
一体なんで見ず知らずの私を助けたんだ。

私は人生ピリウド計画を阻止され、
恨めしげに彼の顔を見る。
彼はただ私の腕を引っ張って歩く。


悲鳴を上げれば逃げ出せるのだろうが、
そんな気力も何もない私は目の前の何も知らない男にただ連れられる。

そして彼が私を連れ込んだのはホテル…

彼がホテルのチェックインを済ませる間、
逃げ出そうと思えば逃げ出せる。
人生を投げた私なのだから、今更何が起こっても文句を言う権利などないのだろう。私は無表情かつ無言で事の成り行きを見守る。

ホテルの部屋に着く。
めちゃくちゃ広いわけでもなく、狭いわけでもない。本当に丁度いいサイズの部屋。
ホテルだけあってお洒落な家具が部屋を彩っている。

彼はソファーに腰を下ろした。
そして私に毅然とした口調で声をかける。

「おい…お前、こっちに来い。上着を脱げ」

あぁ、助けられた御礼に
身体を差し出すのか。

私は上の服を脱ぐ。そして、ブラジャーに手をかけようとすると…

「おい、何をしてる。それは外さなくていい」

つけたまま派の人なのか。
まぁどうでもいいけど。

私がしばらく俯いていると…

彼が突然私の腕を掴んだかと思うと…

「ッ!!」

腕に突然ひんやりした感触があり驚いて見てみる。
ピンセットで私の腕の傷を消毒をしていた。

「思いっきり叩きつけたからな。…すまないな」

そこを謝るのか。終わらせてくれなかった事に謝って欲しい。

「何故、あんな馬鹿な真似をしようとしたんだ」

「もう何もかも嫌になって、職場に二度と行きたくないと思った瞬間逃げるため終わらせたかったんです」

「…、仕事が原因か。」

「あなたは…理不尽な事をどう消化してますか?」

「消化なんて…してないさ。できるもんじゃない。…だが、そこで立ち止まる事だけはしていない。」

「すごいですね。私はだめですね。すぐに立ち止まってしまう…」

「君がダメだって訳じゃない。…歩き方を知らないだけさ。みんな同じ道を歩いていると思っているが、人によっては全然違った道を歩いている。人によっては平坦な道を歩いている奴もいれば、ぬかるんでいたり、針の上を歩いている奴もいるだろう。」

彼の言葉が、心の中に優しく響いてくる。

「立ち止まりたくなったという事は、道を変えるか…それとも自分が歩き方を変えるしかないんだ。世の中は理不尽な事ばかりだ。だが、そんな中でも自分を不快にさせた奴の為の人生じゃないだろ?」

「はい…」

「自分の人生なんだ。自分のペースで歩けばいい。立ち止まる時があっても歩き方を見つけて、また歩き始めることが肝心だと俺は考える。歩いていれば自然とそうなるべき時にそうなったと受け入れられる日が来るはずだ。」

「…」

「あと…そうだな。君の職場の人間は君が辛い思いをしている事を知っているのか?」

「いいえ」

「自分でしっかり歩こうという意志を持つのは一見正しい事のように思うものだが…自分一人だけでは成し遂げられないことの方が多いはずだ。自分から声を発したら、案外助けてくれる人間もいるはずだ。…こんな見ず知らずの人間でも助ける人間もいるのだからな…」


「ありがとうございます。何だか、先生って感じですね」

「先生?…それはないな。俺はギャングだからな。結局どうするかは自分で決めるだろうが、死んじまったら何もない」

彼はそう言って器用に大きめの絆創膏を貼ってくれた。

「ありがとうございます。確かに死んでしまったら何も無いですよね…先生じゃなくてギャングだったんですねぇ…。…、…え?」

あまりにも信じられない言葉で聞き流していたけれど、自分で口に出しておかしな事だと驚いた。

この人がギャングなのか。

「君に説教した人間が聖人でも何でもな俺が命の大切さなんて問うのは、おかしな話だが、あの時…そのまま見ていられなかったからこそ俺は止めたんだ。だからギャングだからと言って別に君に何か請求する真似はしない。安心してくれ」

そして、彼は部屋の入り口に向かい
振り返り様に一言声をかける。

「今日はゆっくり考えてみるといい。それで、どうするかは君次第だ。俺はこれから用事があるんで失礼する。Buona notte 」

歩き方か…。
自分のペースで歩く方法を考えてみるのもいいかも知れない。




《Come camminareー歩き方》
…end
2019/07/12

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