ハート短編夢

□最初のクリスマス
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「最初のクリスマス」
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寒空の下で
二つの吐息が一瞬現れ
闇に消えて行く。


町はクリスマス一色。
玩具屋のショーウィンドウには…
大きなくるみ割り人形と
雪景色を走る機関車…。
それに小さなメリーゴラーンドが
くるくる回っている。

サンタさんの飾りを見ると
なんだか懐かしい子ども時代を
思い出す。

今年もサンタさんは
プレゼントを持って来たのだろうかと
はしゃいだ情景が蘇るような…。


でも、今は…違う。

サンタさんが主役なのは
子ども時代の話で

今となっては
クリスマスイブをこうして
恋人と過ごしている。

街のイルミネーションが綺麗だという事で
どうせなら、それを見ながら目的地に向かおうという話になった。

こうして、徒歩で
予約したホテルに向かう
私とローさん…。

見ているだけで寒そうな細身の彼。
そんな薄着でよく平気そうにしているのが不思議で…。
割と厚着をしている私でも寒いのに…。


ローさん、寒くないのかな?

首に巻いているマフラーは暖かそうだけど…
正直コートは暖かいとは言えない薄い生地に見えた。

私が凝視していると、
視線に気づいた彼は
私の方を心配そうに覗き込んだ。


「名無しさん、寒くねェか…?」

正直に言えば、寒い。

でも、ローさんの方が
ずっと寒そう。

むしろ私が聞きたいよ…

首を横に振ってこたえる。
けれど、彼は

「無理してんじゃねェか?」

私の心を見抜くように怪訝そうな表情を向けた。

「だ、ぃ…大丈夫だって」

「お前…歯がカタカタ鳴ってんぞ…!無理してんのが分かりやすいんだよっ。ほらっ、これでも首に巻いてろ」

「ローさんの方が寒そうなのに…ッ!わッ!」

脱いだマフラーを顔に投げつけられた。

ちょっと痛い。

寒そうな人から奪ってしまった罪悪感が残る。
マフラーを返そうとするも…

「お前が風邪になったら困るのは誰か知ってんのか?黙って首にまいてろ」

「ローさんが風邪引いたら私以上に困るのに…」

「医者の俺が、風邪引く訳ねェだろ…。それに、それほど寒く感じねェからな…」

そういえば…ローさんは寒い地方の出身であった事を思い出した。彼の住んでいた場所は確かに冬は極寒だとか…マイナス何度だとか…。そんな話を聞いた気がする。

「ローさん…、ありがとう。」

「これ位…礼を言うほどでもねェ。…ほら、もうすぐ着くから、それまで風邪引くんじゃねェぞ。」

そう言って、私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
マフラーのおかげなのか、
ローさんの優しさが心に灯ったせいなのか

なんだか、熱くなる。


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