ハート短編夢

□我が輩は猫である
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「我が輩は猫である」


※注意 人間ではなく猫であります。
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我が輩は…猫である。
名前はまだ…な…

いや、もうある。


“名無しさん“


という。
それがご主人様が与えてくれた名前。

そして

私はいつも通りご主人様の
ベッドにひょいっと上がり
寝ているご主人様に身体を擦り寄せる。

すると…

「おい、起こすな…」

そんな事を言いながら、
ゆっくりと起き上がるご主人様。

寝癖がついていないのか気になるのか
ご主人様は頭をぽんぽんと手で押さえるも…
相変わらずツンツンと髪は跳ねている。

寝ぼけまなこのご主人様が
私の方を見つめる。

ドキドキ…

猫である私からみても…
ご主人様はたいそうカッコイイ。


“ご主人様〜〜“


大好きなご主人様に撫でてもらいたくて
飛びかかると、ご主人様はひょいっと
私の脇から腰あたりを手で掴み、
私の身体を持ち上げた。


「にゃぁあああーーー!!!」


違う…万歳をしたい訳じゃにゃくて…
撫でて欲しいのに

と思っていると


「おい、暴れんな。おとなしく、まってろ」

そう言い、私を床に下ろすと…
ご主人様は欠伸をしながら…
冷蔵庫からミルクを取り出して、
お皿に入れて水で少し薄める。

その薄めたミルクが入ったお皿を
ご主人様はしゃがんで
床にちょこんと座っている私の目の前に 
置いた。


「ほら…飲め」


ご主人様の方をちらちら見ながら
舌をミルクに這わせる。


「うめェか?」

そう聞かれれば

“もちろん美味しいです!
ご主人様!ありがとう“と答える。

「にゃぁーーー」

ご主人様は…

にこりと笑い、
私の頭を撫でてくれた。

私にとって、一番嬉しい事は
ご主人様のこの慈愛に満ちた笑顔を
見る事ができるのは…
おそらく、この船では
猫の私だけにゃのだ。


「名無しさん…おとなしくしてろよ」


そう言い、ご主人様は部屋を出て行ってしまった。
私はご主人様の邪魔にならないように…
部屋でおとなしくしているのだ。

というのは、忠実なわんこの話で…

私は猫なのである。

好きなところにふらりと現れ、ふらりと消えるのである。

ご主人様が消えた後、
私は扉から抜け出し船の中を歩く。


「おい、名無しさん!!ダメじゃないか、船長におこられるぞー」


わ!!


後ろからの大きな声にびっくりして、
思わず飛び跳ねると。
あっという間に抱きとめて
捕まえられてしまった。

確か…ペンギンさんだっけか?

ご主人様以外の人間に
あまり興味がなかった為、
うっすらと覚えている程度だった。


「にゃーにゃー」

じたばた騒いでいると
ドタバタと大きな音がして、

やつがやってくる事がわかった。
要注意の大きな白クマ

やつがやってきてしまった。


「あれー。またキャプテンの部屋から逃げ出してたのー?」

逃げ出した訳じゃないにゃ。
ちょっとした散歩なのに
大きな勘違いだ。

今にも…食べられそうな大きな口。
それに…大きな身体。

怖いにゃ。

食われるにゃ。

私は完全に身を怖がらせていると…。

「あれ?おとなしくなったな」

ペンギンさんがそんな事を言うと
ベポが…

「ペンギン…もしかして名無しさんに嫌われてるんじゃ?」

なんて言った。

逆にゃあああ!!!!
白熊嫌いにゃぁああ!!

「おい、じゃあベポが船長の部屋に戻してこいよ」

「いいよー俺、猫好きなんだー」

このままだと…

あの大きな白熊に

捕まってしまう。

助けて欲しいにゃッ!!

「こらこら、暴れるな」

そんなやりとりをしていると…

「おい…なに騒いでんだ」


「あ!!キャプテン!」

「ロー船長!」


“あ!!ご主人様にゃぁーー!!“


「にゃあ〜〜」


ご主人様に助けて欲しいという目を向けると
ご主人様は溜め息をついて…
少し呆れた様子で…

「ったく、名無しさんがまた部屋から抜け出したのか…。ほら…渡せ」

そう言って、ペンギンさんに言ったので、
ペンギンさんはおとなしく船長に私を差し出した。

「はい、ロー船長」


ご主人様に抱えられて
幸せになり、すりすりと顔を擦り寄せる。


「本当に名無しさんは船長が好きなんだな」

「俺も猫さわりたかったのにぃ」


「ベポ…、お前は流石に名無しさんが怖がるからな…」

「そ、そんなぁー」


今日は助かったにゃ。

ご主人様の部屋に連れ戻され
怒られると覚悟を決めていたのだけど


「少しだけ、遊んでやる。もう逃げ出すなよ。」

と言われ、猫じゃらしで
ご主人様に少し遊んでもらい…
気づくと眠くなり
そのままゴロンとして目を瞑る。

そんな幸せな日常。
それが永遠と続くかは分からないにゃ。

ご主人様が外から戻って来た時は

たまに、ひどい血の匂いと煙の匂いを身体に
いっぱい染み込ませている時もあるにゃ。

たまにご主人様はひ部屋で
独りで、怖い形相をしながら…
考え事にふけっている姿も見るにゃ。

悔しそうな表情で気が立っている事もあるにゃ。


ご主人様は“船長“という偉い立場についているから
きっと、仲間のみんなに弱い部分を見せたくないのだと

私は勝手に考えているのにゃ…

ご主人様が独りで苦しんでいる時に
私はすり寄る事しか出来ないのにゃ。

私は猫だから、

人間じゃないから、

結局、ご主人様に何も出来ないのにゃ。
何かしたくても、言葉も通じなければ…
手足となることもできない。

それが…辛くて辛くて仕方がない時が
いっぱいあるのだけれど…

それでも私は、

ご主人様の飼い猫であり続けたいにゃ。










「我が輩は猫である」






かなう事なら
人間になってみたかったけど
猫だったからこそ、
ご主人様は傍に居させてくれたのかも
知れないにゃあ。


13.11.03

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