ロー長編連載夢

□18シャボンディ諸島にて06
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シャボンディ諸島の無法地帯にある
ポツンとした屋敷。

そこに無言の従者は私を導いて
扉をちらりと見て頷く。

開けろ…という事なのだろう。

ごくり…

私は生唾を飲み込んだ後に、
ゆっくりと扉を開ける。

するとあまりにもわざとらしい
しかしこの場所では違和感の無い

ぎぃいいっという古い扉が開く音が響き渡った。

扉が開いた瞬間に咽せ帰る濃い血の匂いが
鼻の奧に染み渡る。

嫌な事に一瞬だけど…
今の私の“恍惚“の表情を浮かべてしまった。

あらがえない血の誘惑。

ぐっと理性で抑えこみ、鼻を手で押さえていると
コツンコツンと足音が奥から聞こえてきたと思った。

その刹那、

一瞬で目の前に男が姿を現し
私はへなりと腰を抜かし座りこんでしまう。

「そんな怯える事もなかろうに…。手を貸してやろう」

そんな事を言って、手を差し出す男は
紳士な行動に似合わず、残酷な目でこちらを
あざ笑う様に見据える。
まぎれも無く私を吸血鬼にした張本人

“BLOOD WOOD“


で間違いなかった。

怖い。

素直に恐怖を感じたものの
私には背負っているものがあるのを思い出し、
私は差し伸べられた手を無視して…
自力で立ち上がり、男を睨みつける。

「ふ…、まぁいい。ついてきたまえ」

そう言って、この男は屋敷の奥に足を進める。
私は覚悟を決めて、静かについていく。
無言の従者も後ろからのっそりとついてくる。

屋敷はクモの巣のかかったシャンデリアがいくつもあり、
蝋燭が揺れ不気味に照らしている。

途中で何個か部屋を通りすぎたのだけど…。

その部屋の扉の隙間から、ブランと垂れた女性の手が見え
身を硬くした。血の気のない一切動かない手。
腐った匂いがしないところを見ると…
つい先ほどまで、彼が食事をし終わった後なのかも知れない。

この男は間違いなく…、
何人も人を殺している。

屋敷の中をそこまで長く歩いていないのに…
永遠のように感じた。
扉から遠ざかるにつれ不安が増して行く。

船長…ペンギンさん
シャチ、ベポ
ジャンバールさん
みんな…

そうみんなの顔を思い出して
何とかすくんで仕方がない足を進める。

私には仲間がいる。
守るものがある。
生きて…帰るんだ。

呪文のようにその言葉を
心の中で呟いて足を進めると、
突如目の前の男が立ち止まり
奥の扉を開ける。

「それでは晩餐会にするとしようか…」

その言葉にビクリとなるものの

「ふ…なに、人の真似事に過ぎないから安心したまえよ」

そう言って、扉を開けるBLOOD WOOD。

目の前に広がる光景は、白い長いテーブルに
豪華な夕食が置いてある。
貴族の食卓。
まさにそんな感じのものだった。
椅子が端と端にそれぞれ一つある。

「さて、ローブはそこに…。きみの席はそこだ」

有無をいわせない視線に従い
ローブを脱ぐと、彼は私のつなぎを見て

「まったく、何て格好だ。きみの美しさが損なうな」

など声をかけてきたが、無視して…
静かに椅子に座る。
彼は私の真反対、真正面に位置する席に腰を下ろし…
そして隣に無言の従者を立たせている。

「食べたまえ」

そう言われたものの、
私は一切手をつけない。
何が入っているか分かりはしないのだから…。

そんな様子を気にせず、
彼は銀食器で人としての食事をしながら
私に不満を零す。

「ふ…、まったく、次会う時は“同胞“としてよろしくと言ったはずだというのに…人間と仲良く海賊ごっこをするとは思わなかった」

何を勝手な事を…。
私は恐怖を越えて大きな疑問にブチ当たる。

「…どうして…。そもそも私を半分吸血鬼にしたのッ」

「愚問だな。きみが人間である限り、衰え、そして死んでしまうだろう?ならば、時を止めて、生かしていておきたい。ただそれだけだ」

「…それだけの理由で…」

私が呆気にとられると…。

「君にとっては、それだけでも…我が輩にとっては大きな願望なのだよ。君の踊りが気に入っていてね。長い時を生きた我が輩にとっては大きな存在という訳だ。飽き飽きしているのだよ。生きる事にね…。なにより踊りだけじゃなく、むしろこちらの方が大きい理由でもあったが…君はなかなか面白い人間だからね」

「あなたは…あなたのエゴで私の人生壊した」

「左様。そう言われても仕方あるまい。だが…どうなのだ?君が今崇拝してやまない、あの海賊もそうだろう?」

「…ッ!」

「我が輩が人を殺すのは、生きる為だ。そして殺さず半分吸血鬼にするのは、長い間生きた娯楽としての楽しみだ。人間が動物を飼って芸させるのと何ら変わらん。それでいていて自由にさせている。むしろ良心的だと我が輩は思うがね…。海賊というのもどうだ?自分たちのエゴで金品を略奪し、命も奪い、島を焼き、非道の限りを尽くす。より多くの人間の人生を壊してるだろう?」

そんな事を言いながら、
彼はワイングラスに注がれている血をごくりと飲み干した。

……確かに…あなたが言う様に海賊はいい人とは言えない。
それでも、全てが全て非道とは限らない。
少なくとも私は救われたのだから…。

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