ロー長編連載夢

□03医者と患者
1ページ/4ページ



「貧血なんだろ?」

そう言った言葉は、医者として普通の言葉であったが、
今のタイミングでは異常を感じずにいられない。

血の入った小瓶をもってきたのだから…

言葉通りの貧血ではない…って

この男も分かっている。


「もう一度、聞くが…お前は、何なんだ?正直に答えろ。そうすればコイツをやる」

そういって、目の前の瓶をちらつかせる男。
タプンと揺れた赤い液体に目が釘付けになった。

聞かなくても…検討がついているだろうし…
全く分かっていなかったら…
この瓶は持ってきたりしないはず。

隠しても、見通されると察した私は…もう言ってしまう事を決意した。

そして、

なにより…この瓶が欲しかった。



「私は…吸血鬼に噛まれて…それ以降は普通の人間とは言えないことに…」

「俺は…オカルトじみたものを信じる気はねぇが…、目の前に居られるとな…。普通の人間とは言えないとはどうゆう事だ…詳しく教えろ」

「人の血を飲まないと…生きていけなくなりました。」

「他に…身体的に変わった事はあるか?」

「血を飲もうとすると、歯が二本鋭く伸びるし、直射日光にあたると正直…焼ける様に肌がヒリヒリする。鼻はよくなった気がする。暗闇の中でしっかり見えたりはする…あとは、さっき言った体温が下がった事と運動能力と傷の回復速度が上がった事くらい…です。」

堰を切った様に話してしまった、自分自身に驚いていた。

今まで私と向き合ってくれた医師がいなかった。
まず、血を飲みたくなると言ったところで、
精神科に回されてきた。
精神科じゃない場合は教会にまわされたりもしたけど。

だから、もしかしたら
聞いてくれた事が
嬉しかったのかも知れない。


「お前に噛まれた人間はどうなった?お前と同じになんのか?」

「ならなかったです」

「確信を持っていえるか?」

「数ヶ月間に渡って同じ人に直接、血をもらってましたが、決してその人は私と同じ様にはならなかったので…」


過去に私に血を分けてくれた女性がいて
数ヶ月一緒暮らしたのだけど…
決して、私と同じにはならなかった。

その女性は「吸血鬼」になりたがっていたようで

なれないと知って、私の前から去っていったけど…


「あと、性格的に変わった事はあるか?理性が消えるとか…攻撃的になる…とかな」

「えっと…特にないです。世間から肩身の狭さを感じて…以前より暗くなったというか…罪悪感を常に抱く、くらいです」

自分で言っていて悲しくなるけど…
実際に攻撃的になるどころか…

暗く落ちぶれている。


人を襲って血を吸うなんて野蛮なマネできないし。

人間では、もうないのに…

どこか人間でありたい自分がいて。

その叶わない葛藤を常にもっていた。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ