ハート短編夢

□前を向いて歩け
1ページ/1ページ


「前を向いて歩け」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は甲板で夜風にあたりながら
涙を流していた。

私はハートの海賊団に入り、
同じいちクルーである彼に見初められ
付き合っていた。

でも、それは昨日までの話で…

今日

別れたんだ。
そう、心から実感したのは、
別れたしばらく後の事だった。

別れは自分から切り出した。
それなのに、どうしてこんな辛い気持ちになるんだろう。

もともと合わない二人だった。
すれ違いを重ねて、何か違和感を抱えながら
付き合って3年になるだろうか。

お互いに気持ちはどこか薄れてしまった…
信頼は生まれても
それは恋愛ではなくて…

ある種、兄妹のような関係を
続けてきてしまった。

私が別れを切り出した時、
彼は驚き、そして…すぐに理解をした。
私と彼は同じ気持ちだったのだ。

このあやふやで不安定で
将来の一切見えない関係を
続けてしまった。

だから、私達は決めた。
別れて二度と口を聞かないようにするのではなく…
「良き友、良き戦友」として…生きようって。
お互いがそれぞれ幸せになろう。
そう言葉を交わし合った。

別れ話をした直後も笑顔で話して
「またね、また明日」
と友人に声をかけるかの如くできたのは、
お互いが友人関係である事を望んだからなのかも知れない。

そう…笑顔で別れた。
嘘じゃなくて…心から友人になれた事を
嬉しく思って別れたのに…。

それに何よりも

私はもう…別に好きな人が出来てしまっていた。

気付いたら…
船長が好きで仕方がなくなってしまっていた。

振向いてもらえなくてもいい、
ただ、船長の幸せな姿が見たくて…

それなのに…どうして涙は止まらないのか
私にはまるで、分からなかった。



「名無しさん…こんな夜にどうしたんだ?寝れねェのか…」


そう声をかけて来たのは、
なんと…船長で…、私は涙を慌てて拭う。

「な、なんでも、ないです」

「……。そうは見えねェな…、アイツと何かあったのか?」

そういうロー船長は私の隣にきて、
同じ様に夜の静かな波を見つめた。
船長には、クルー同士で付き合っているのは
とうの昔に知られていた。

きっと誤摩化しきれない。

別れた事はきっとすぐに知れ渡る。
だから、私はこの際話してしまう事にした。

「彼とは…別れました。…私達は戦友になるっていう話で…落ち着いたので…」

「そうか…」

船長はそう一言呟き、それだけ言って
海を眺める。

「……」
「……」

並んでひらすら静かに
月明かりに照らされた暗い海を眺める。
涙は頬を静かに伝った。

どうしよう…
無言の空気に耐えかねて
私は船長に声をかけた。

「船長…」

「なんだ?」

「船長は…自室に戻られないんですか?」

疑問を口にすると、
船長は一回溜め息をついた後、

「こんなぐちゃぐちゃの顔したお前を放っておけねェからな…。吐き出した方が楽になるかも知れねェ。俺に話したくねェなら、別に構わねェ…が」

普段人の話を聞く人じゃない船長が
私の話を聞いてくれるという。

船長のこんなクルー思いな所も
惹かれて仕方がない。

ただ、涙で船長の気を引いたみたいで
なんだかズルい事をしている気がするけれど…

「船長、ありがとうございます。少し…吐き出させて下さい」

私は船長に、
私と彼がどうゆう経路をたどって
今に至るのかを、船長に打ち明けた。
船長は嫌な顔をする事もなく
至極真面目に無言で聞いてくれていた。







「ただ…今もこうして涙が出るのが不思議で…」

私は笑いながら船長にそう零すと、船長は…私の頭をポンっと叩いて

「泣くって事は…なんだかんだ言って、好きだったからじゃねェのか?…あいつの事」

「そう…なんですかね…」

またも涙が溢れるのを堪えて、声が震える。

「その気持ちがあった事が肝心だと思うが…。嘘で付き合ってた訳じゃねェんだろ?」

言われて気付く。
そう、嘘で付き合ってたんじゃなくて…
ただ、もう終っただけだった。
ちゃんと…私は彼を愛していた。
それさえ分かれば…いいんだ。

「はい…嘘じゃなかったです」

「だったら…問題ねェ。あとは…顔を上げてお前が前に進めるかどうかだ」

「……進みます」

私はそう呟いた後、
顔をパッと上げてはっきりした声で宣言した。

「ちゃんと、前に進みます!」

「それでいい。気分はスッキリしたか?」

「船長のおかげです!本当にありがとうございました!」

「俺は特に何もしてねェ。お前が自分の力で前を向けたんだ。……もう泣くなんて事はねェだろ?」

私は再び大きく笑顔で返事をして頷いた。

船長と話して、
私は確信した。

前に進もうって。

そして、いつか必ず

船長を振向かせようって心に決めた。


……

……

海は相変わらず静かな波音を立てている。


「船長…、ようやく眠れそうです」

私は自室に戻ろうと船長に背を向けた時、
突如掴まれる手首。

「え、船長…?」

驚きと戸惑いの顔を船長に向けると、
船長は私を真っ直ぐに見据えて
はっきりと言った。


「名無しさん…お前の傍に居たのは…アイツだけじゃねェんだ…。」

その吸い込まれそうな目に…
私の心臓は跳ね上がった。















「前を向いて歩け」



別れたあの日から時は経ち…

別れた彼とは親友として、
笑ったり、話したり毎日できていた。

そして私は船長と
付き合う事になった。


13.09.13

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ