ハート短編夢

□どしゃぶり模様
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「どしゃぶり模様」
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「なかなか止まねェな…」

船長はそうぼそりと
不満をこぼしながら、木の幹にに背中を預けている。
私はその隣に同じ様に身をよせていて、
普段では考えられない近距離に居た。

船長と密着して隣にいる


………

………


もともと空は曇っていた。
それでも
大丈夫だと思い、
ゆっくり帰り道を歩いている途中で
突然の強い雨に降られて

私と船長は慌てて、
小さな木の下に逃げ込んだのであった。

はじめは、緊張して…
少し離れて立っていたのだけど…
もともと大きな木じゃない為
どうしても濡れてしまう。

「おまえ、そこじゃ…濡れるぞ。こっちに来い」

と声をかけられ、おそるおそる船長の隣に落ち着いたのが今に至る。


しばらくしていれば、晴れるかと思っていたのに…
一向に雨は強まって晴れる気配はない。


「おい…名無しさん…」

「な、なんですか…船長」

「お前の手冷てェな…。身体が相当冷えきってる」

そう言って、船長は私の手を突然握った。

「あ、わ、わ、大丈夫ですよ…」

あまりの事に動揺してしまって…
ものの見事に…、

こけてしまう。


ぱしゃん。



そして、更に運が悪い事に…。
尻餅をついた先にあったのが水たまりで…


「つ、つめたッ」

っと声をあげる事になってしまった。

「ハァ…何してんだよ…ほら」

そう呆れ顔の船長が手を差し伸べてくれて、
すぐに立ち上がる。

土砂降りの中で…こんな失態を晒してしまい、
なんだか…散々な一日で泣きそうになる。



「おい、もっとよれ。そこじゃ濡れるぞ」

「もっと寄ったら、船長まで濡れちゃいますよ」

私のつなぎは…もう、びしょびしょで…
しぼって見せた。
こんな状態で船長に近づきたくなかった。

船長は…顔を顰めて何か小さく言葉を口にした。

「ばかっ……」

という言葉が聞こえてきた気がするけど…
土砂降りで聞こえない。


「船長…なんて言いました?」

すると…船長はちょっと怒った顔で
声を荒げた。

「ばかっ…俺の心配より、自分の心配をしろ」

そう言いながら…船長は私の腕をしっかりと掴み
自分の傍に引き寄せた。

「お前…ただでさえ、相当冷えきってんだ。熱出す前に帰らねェとな…」

「え…でも、帰るって言っても…ここから船は遠いですし」

「この辺に店や民家がありゃァ良かったんだが…それもねェからな。少し…雨にあたるが…我慢しろ」

そう船長が言った後
私を自分の脇によせる。

「え?…船長?」

「俺の能力で移動すれば…だいぶ早くつけるはずだ。いくぞ」


″ROOM!!″



………

…………


私はいま、あったかい毛布にくるまり
コックが作ってくれた温かいスープを飲んでいる。

船長は上半身裸の状態で大きなタオルをかけ、
イスに腰かけていた。

ふと目があい、
船長から言葉が飛んで来る。

「熱の方が出てねェか?」

「はい!船長のおかげで風邪は引かなかったみたいです」

「なら、いい。」

「あの…本当にありがとうございました」

「礼はいらねェ。クルーが風邪をこじらしちゃ…色々と面倒だから自分の為にやったようなもんだ」


船長はそう
そっけなく言うけど…

何よりもクルーを第一に考えてくれてるって…
私やクルーのみんなは知ってる。

ぼんやりとランプの光を見ながら思い出す。

船についた時には、
むしろ船長が息を切らす結果になり
申し訳なかった。

船についた時も、自分の事よりまず先に

「おい、名無しさんが相当身体を冷やしてる。あったかいものと着替えを持ってこい」

とクルーに声をかけてくれて…。

「船長ー…待ってくれたら俺たち傘もって探したんスけど…」

「こいつの身体が相当冷えきっていたからな。早く船に戻った方がいいって判断した。それに…お前ら遅ェよ」

「だって、船長と名無しさんがどこにいるかなんて、事前に聞いてなかったんで」



船長…。

私達の船長は

世間では…

残忍だとか、残酷だ。
冷たい男だとか言われるけれど…




こんなにも私達には

あったかいんです




「名無しさん…お前何ひとりで笑ってるんだ」

「なんでもないです船長!」



13.09.04
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記録的な大雨が降った為、
雨に濡れる話を書いてみました。

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