ハート短編夢

□食欲の矛先
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「食欲の矛先」

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船長は私の事を
クルーとして見てくれているけど…

決して「女」としては見てくれなかった。

クルーになりたての頃は、
それでも全然良かった。

むしろ、女として分け隔てされる事なく、
厳しくも同じ扱いをしてくれた事は
私にとって、誇りであった。

荒れくれ者が溢れる海賊社会で、
女だからといって…

守られる存在じゃない。
決して弱くもない。
船長を支える、いちクルーだと、
胸を張って生きてきた。


だけど…

いつからか、船長に
クルーとしてみられるだけでは
満足できなくなってしまった。

私は…

船長のことを

どうしようもなく、

好きになってしまったのだ。


クルーとして船長が大好きなんかじゃない。
ひとりの女として…船長が好きだと
そう伝えたい!

その為には、船長にクルーではなく…
「女」として見てもらう必要があった。

これは…頑張るしか無い。

船長はみんなと違った時間に目が覚める為、
朝食を逃して、お腹がすいているはず…。

そんな、船長に私ができる事は
手料理を持って行くこと!

この時間のコック達は、完全に爆睡している。

これは…チャンスだと思い、
私は消毒し、厨房に足を踏み入れた。

色とりどりの食材。

料理を最後にやったのは…
かれこれ2年前になるけど…

できない事はないはず…。

食材とにらめっこしながら考えていると

どこから出て来たのか、
シャチが顔をぴょこりと出しニヤニヤとした。


「おい、名無しさん…食べ物盗む気か?コックにどやされるぞ」

シャチがちゃかしてくる。

「違うって!手料理作るの!」

「名無しさんが…手料理?お前作れるのかよ!」

「た…たぶん」

二年前だとはいえ…
作れるはず…

たぶん。

心配そうに目を泳がせると、
シャチは、

「別に料理なんかしねェで、その辺にあるもの食べておきゃいいんじゃねェ?」

まだ、私がお腹を空かせてると
勘違いしている様子だった。
失礼しちゃう。

「私じゃない!」

大きい声をあげると、シャチはキョトンとした顔になる…

「じゃあ、誰に作るって言うんだよ…」

そう聞かれると…
途端に恥ずかしさが込み上げる。

私は消え入りそうな声で…

「これは…その…船長に…」

と正直に告白してみる。

「船長に!?…お前…勇気あるな。ただでさえ寝起きで機嫌悪ィのに…お前の作った不味い飯出されちゃ、船長の機嫌が悪化するだろ!」

「ま…まずく作らなきゃいいでしょ!?」

「お前も知ってると思うけどさー船長の好き嫌いの多さは異常だぜ?嫌いなもんは絶対食べないもんな…」

「う…うう」

そうなのである。

船長は食べたくないものは、

何を言っても食べない。

そういう人だ。

パンを拒んだ船長に

さらりと、「好き嫌いはよくありませんよ」と
言った後…ギロリと睨まれた記憶がしっかり刻まれている。


「船長が食わない…って言うなら、俺やペンギンのとこにもってこいよ!お前がどれほどの料理の腕とか興味あるしな!!」

「う…わかった。船長が食べなさそうなら、もってくるね」

「せいぜい頑張れよー!」


そう茶化すだけ、茶化したシャチは
私に手を振り厨房から出ていった。


ようやく…これで落ち着いて料理が作れる。


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