ハート短編夢

□難航する不眠症治療
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「難航する不眠症治療」

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ペラ 

ペラ

俺は先日島で買ったばかりの医学書に
目を通す。

だいたい…知ってる内容だったが、
時々、目新しい項目があるから面白ェ。
島特有の病気も載っていて、
実際これは、滅多にかからねェ病って頭で分かっていてもクルーに万が一がねェように、頭に治療法を入れたくなる。

俺は夜中に医学書を読みあさる事が多い。
日中は、敵船であったり、海軍だ…と
クルーがバタバタして、正直集中できねェ。

その結果、夜中が唯一医学書に没頭できる時間だった。

そんな静寂を守っている空間に
扉をノックする音が聞こえてきた。

ハァ…

アイツか…何しに来たんだ…

足音がペタペタと軽かったから、
すぐに誰かは検討がついた。



「入れ…」


「船長…ここ数日…寝れないです!」

そこには、案の定…名無しさんが扉の前で突っ立っていた。


「部屋に戻って、羊でも適当に数えてりゃァ寝れるだろ…」

「せ、船長!!そんな事言わないで下さい!それもやったんですが、本当に寝れなくて…困ってるんです!」

めずらしく必死に俺に食いつく様子の名無しさん。


「あ?だからって…なんで俺の部屋に来るんだ」

「船長なら不眠症の対処方法知っているかなーと思ったので!!」


じっと俺と目を合わせる名無しさん。
その瞳には…
俺の隈が映り込んでいた。
よく見ると…こいつにもうっすら隈がみえる。

「言っておくが…俺は不眠症って訳じゃねェ。寝るよりやりてェ事を優先させてるだけだ。」

「そうなんですか!?てっきり不眠症かと…」

「違ェ…。だが、医学書で不眠症について、読んだ事はある。試してみるのもいいかも知れねェ…」


俺は手元にあった本を閉じ、
名無しさんに…患者に向かい合った。


「ここに、座れ…」

「は、はいっ」

「不眠症になる原因ってのは、いくつもある。心当たりがあるやつだけ、後で教えろ。

まず一つ…『適応性不眠』ストレスから来る不眠だ。

二つ目『幼少期からの悪癖』これは…おそらく違うな。親が決まった時間に子どもを寝かせねェとなるが…お前の場合は、最近の事だからな。

三つ目『特発性疾患による不眠』幼年期に始まり成年期まで続く睡眠障害だ。体内のバランスが崩れて、覚醒機構が強く働きすぎたり、逆に睡眠機構がうまく働いていねェ事が理由らしいが、正直あんまり分かっていねェようだ。』

俺が長く話している間も、
名無しさんは眠くなる気配は無い。

今までのコイツだったら、人が説明していても、
頭で理解できないと感じた途端、
眠い目を必死に開けながら、首をカクカク揺らしていた。

本気で不眠症になったのかも知れねェ…

俺はそのまま、不眠症の要因をあげていく。

「四つ目…『薬物による不眠』薬物っていっても、刺激物だ、寝る前にカフェインやアルコールの摂取でおこる場合だな。

五つ目は…『健康障害での不眠』他の病気で身体の痛みや息苦しさで寝れなくなった場合だな。お前の場合は、風邪引いてる訳でも、怪我もしてねェから…違うだろうが。

六つ目…『精神障害による不眠』精神衛生が悪くなった時だ。心理的不安から、寝れなくなる事がある。

七つ目は…『逆説的不眠』これは、寝てる状態の奴が寝れてないって感じる事によって起こる状態だ。実際睡眠時間がとれてるのに過小評価した結果、睡眠時間がとれていないと感じるってだけの話だ。

どれか、当てはまったか?」

俺がちらりと名無しさんを見ると…
考えこんで「6かも知れない」という。

「精神障害による不眠」か…

普段から明るいこいつに限って
それは無いって、他のやつらは思うかも知れないが…
こういう奴に限って、不安を押し殺す為に
無理して明るく振る舞ってる可能性も考えられた。


「となると…不安を解消する事ができれば、寝れはずだ…。何が不安かわかるか?」

「え…ッ、えっと…、これ言うんですか?」

「言わねェなら…俺にできることはねェ。勝手に夜中起きてろ…」


俺が突き放すように、言うと…

「い、言います!!」

名無しさんが決意したように、
声を震わせて言う。


「せ、船長…私の不安は…、船長が…どこかに行っちゃう気がして…それが不安で…」


俺がどこかに行く…か。
確かに今後、仲間をおいて単独行動しねェと
いけない事態は、想定しているが…

こいつがそれで、不眠症にまでなるというのは
想定外だった。


「俺が…原因だった…とはな」

「あ…違います、船長が原因じゃなくて、私が勝手に不安に思ってるだけで、妄想に過ぎないで…」

「でも、自分で妄想だと自覚してても、寝れないんだろ…」

どうすりゃ…こいつは不安を抱かずに
寝れるんだ…。

寝れない日が続いて弱ってもらっても困る。

こうなったら…仕方ねェ…

俺は立ち上がり、
目の前の名無しさんを抱える。


「せ、船長…その、え?」

「黙ってろ…」

そして…自分のベッドの上に名無しさんを下ろした。

その時、こいつと目が合った。
完全に動揺して…さっと目を伏せる。
頬は完全に紅くなっている上…
よく見ると身体を震わせて…拳はシーツをぎゅっと握りしめている。

「おい…何、目を閉じてやがる…」

「え…その、私はじめてで…優しくして欲しいなぁ…って…」


その発言に俺は固まる。

こいつ、完全に勘違いしてやがる。
勘違いさせっぱなしでも、面白いとは思ったが…
さすがに…こっちとしてもやりにくい。

「勘違いするな。お前が期待してるような事は、しねェよ」

「あ…」

更に顔を真っ赤にする名無しさん。
先ほどとは違った様子で震えたこいつは、
なんとも言えねェ表情で…

「き、期待、なにも…してないです。さっきの無しで…」

と言い、口をつぐんだ。

じゃあ、さっきの、
「はじめてで…」や「優しくして欲しい」
っていう発言は何なんだ。

これ以上言うと
さすがに虐めすぎて、目的の治療ができねェ。

「おい、横になって、俺に背を向けて寝ろ」

「あの…船長…もしかして…一緒に寝れくれるんですか?」

ようやく、俺がしようとしていた事に気付いたらしい。遅ぇよ…。
横になった名無しさんは俺の言われた通り、俺に背中を向けた。

「今日一日限りだ…あくまで、治療の一環だ」

「はい…」

俺は、名無しさんの背中に手を伸ばして、
後ろから抱え込むように抱き締めた。
丁度俺の胸にあいつの背中が密着するようにした。

「ひゃぁ、せ、船長!??」

突然の事に驚く名無しさん。

「静かにしろ。背中に何かある感覚があった方が、安心感が生まれやすい。だから…安心感で不安を打ち消して…寝れるだろ?」

「…た、確かに…背中あったかいですけど…、緊張して、寝れない気が…」

「すぐに…慣れる。いいから、黙ってろ。俺が寝れねェ」

俺がそう言うと…
こいつは一度返事をして、静かになった。



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