ハート短編夢

□信じている
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「信じている」

パンクハザードにローさんが行ってしまう
少し前のお話。
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船長の側にずっと居たい。
それを願っていたのに…叶わなくなるなんて、
思わなかった。

船長はいつも自室にこもったり
単独行動しがちではあったけど…

まさか何日もいなくなるなんて事態が
発生するなんて予想だにしていなかった。


船長は静かに私達に決定事項を告げた。
何もずっと居ない訳ではない。
用件を済ませたら、お前達の待機している所に
戻る。

そう言って、船長は敵のまっただ中に
私達クルーを置いて
たった独りで
飛び出す決意を固めた。


船長が俺ひとりで行くと言ったとき、
みんなは驚きの声をあげた。
私自身も驚愕せざる負えなかった。

ついて行きたい。

みんな誰しも同じ目をしていた。
私はつい最近ようやく、
クルーからロー船長の恋人になれたばかり
だというのに…

ロー船長の側に行きたい。
ついていきたい。

私がロー船長に涙目で懇願の視線を投げるも。
ロー船長は…
困ったと言わんばかりの顔をした。

「あまりにも…危険がある上、独りの方が俺自身が動き易い」

確かに船長はいつも、
共同で闘うというよりは…
船長が先頭をきって、敵を潰してしまうことも多かったけれど…

今回の事は、いつもの船長の様子ではなかった。
重苦しく、何か大きなものを背負った…
そんな気がした。

嫌な予感が過る。

船長はもしかしたら、もう戻ってこないのではないか。
たった独りで行くなんて…


船長がいる最後の晩、
私は船長室を訪れた。

コンコン

扉を数回ノックし返事を待つ。

「入れ」

ロー船長の単調な声が部屋に入る事を許可した。
私がそっと扉を開けると…

「誰かと思えば…名無しさんか。」

船長はひとり酒を飲みながら、私の様子を観察する。
私はポツリと船長に胸の内を打ち明けた。

「明日の朝にはいっちゃうんだよね」

「ああ。」

その言葉を聞き、
胸に大きな重りが垂れ下がった。

「船長と…しばらく会えなくなるなんて…」

耐えられなくなった私は、
感情を剥き出しにして…船長にしがみつく。
迷惑だと思われてもいい。
今は、船長が側にいることを確かめたかった。

そんな私の想いを察したのか、
船長は…私の頭を撫でながら、珍しく笑いかけた。

「船長じゃなくて…名前で呼べ。俺の恋人だろ」

本来、飛び跳ねて喜べる言葉なのに…
せん…ローが笑顔を向けてくれているのに…

それ以上の離れ離れになる不安が渦巻き喜べない。


「ロー…本当に独りで行くの?」

「ああ、俺がこうしてお前達と離れるのは今回だけだ」

「私…足手纏いにならな…」

くどいとは思いつつ…
私はどうしても付いて行きたくて聞く。

淡い期待をしながら必死に言うと…

ローは私をぎゅっと抱き返しながら、
消え入りそうな声で告げる。

「仲間は大切だ。恋人なら尚更、危ない目に遭わせたくねェ…」

「でもっ…それだけ危ない事をローひとりでなんて…」

「俺は必ず戻って来る。だから…俺を信じて…待てるな?俺が頼りなかった事なんてあるか?」


そうニヤリと笑うロー。
確かに頼りなかったなんて事は
決してなかった。
いつも、いつも、ローは私達に希望の光を見せてくれていた。

だから、ローが「必ず戻って来る」と言えば、
絶対に戻ってくるはず…。

信じなきゃ…

私がごねた所で、
ローは独りで行ってしまうのだから、
私に今できる事といえば、

ローの帰りを

ただひたすら、信じることだけで…


「うん…待ってる、無事に帰って来てね」

私が、ローを見上げてそう言うと、
ローは安心してくれたような表情を見せ、
私の名前を呼んだ。


「…名無しさんっ」

名前を呼んた直後、
ローは自分の唇で私の唇を塞ぐ。


「んッ…ロー…ッ」

「…ハァ…」


何度も舌を絡ませる。
息もつかない濃厚なキスをし、

気付いたらローは私をひょいっと、
抱き上げベッドに放り投げた。

「ロー…きて」

「あぁ、今いく」

その晩…
私達は最後まで一緒の時を過ごした。




……

…………


翌朝、私はいつもより早くに目が覚めた。
けれど…私の隣には
すでにローの姿は見当たらなかった。
彼がいたはずの空間にあるのは冷たくなったシーツだけ。

私は側に散らかった自分の衣服を着て
そのまま、船長室から出てローの姿を探すけど…

やはり居ない。

後悔が押し寄せて来る。

別れの言葉もいえなかったのに…

昨晩から分かっていた事だけれど、あまりにも失ったものが大き過ぎて…立ちすくむ。

そんな時、突如声がかかる。

「船長なら…もう出て行ったぞ。別れはいいんですか?って聞いたら、『名無しさんに別れの言葉は必要ねェ』ってさ…たぶん。すぐ戻って来るって言いたかったんだろうな。ふぁーあ。」

一晩中、見張り当番をしていたらしく、
疲れで欠伸混じりのシャチさんが
私に声をかけた。

なんだか、その言葉を聞いてほっとする。

確かに船長らしい。

すぐに戻って来るから必要無いって思ったのかも知れない。

私はひたすら願い続けた。

恋人の帰りを…

ちゃんと無事で居る事を…








「信じている」



戻ってくるまでに…私は私のできることをしよう。
ローが帰って来たとき、驚かせる為に。


13.06.25
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