ハート短編夢

□私だけの秘密
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「私だけの秘密」

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雪がしんしんと降っている。

雪が降っている為、普通に考えれば
白っぽい、あるいは青白い景色になるはずが…

私の視界に1枚茶色のフィルターがかかったかのような
そんな茶色に色あせた不思議な光景。

世界の色が
やけに茶色くボケたセピア調。
どこかレトロで不思議な印象の街を
私は歩いていた。

決して…近代的とは言えないが、
そこそこ街は栄えている様子であった。
様々な種類の店が私が今歩いている通りに
何軒も連なっている。
雪が降っているのに、あまり寒いという感覚はない。
街の商人達は慣れているようで、
少し厚手のコートを羽織、道ゆく人に活気ある声をかけていた。

私の目的は本屋での買い物だった。

目的は本屋であると分かっていたのに、
どういう訳か、どうして今私がここにいるのかも
私自身分かっていなかった。

気付いたら…この街にいて、
本屋を目指していた。

本屋にいく目的もわかっていた。
「船長に少しは自分で医学書を買って
勉強しろ」
と言われてしまっていた為、医学書を買いにきたのであった。

普段の自分であれば、こんなにも店があるのだから…
寄り道をしてもよさそうだったが、
その時の私はなぜか、『寄り道』という発想がなかった…

はじめて訪れた街だというのに、
地図も見ないで迷ったりするのではないかと
心配だったけど…案外そんな不安は必要なかった。

あっと言う間に目の前に本屋の看板が見えてきた。

もともとレトロな街並の中でも
異様に古い外観。掃除が行き届いていないせいで
余計にさびれた印象がある。
中が暗いせいか窓をのぞいても何も見えなかった。

それでも看板には本屋と明記されているから、
本屋に間違いないのだろうけど…

私は、ゆっくりと扉を開けて
本屋に入ってみた。


カラン カラン



扉を開けると、外からの見かけ通り薄暗かった。
外よりは温かい。
本は乱雑に詰まれていて、
いくつもの本のタワーに囲まれる事になった。

あまりの埃っぽさに一度咳込んだ。
店員もぱっと見る限り居ない。

この乱雑に積まれている本の中から
医学書を探すのは一苦労どころの騒ぎじゃない。
私はどうしようかと途方にくれていると…

本の山から…
ピョコリと白くモコモコした、
ファー状の帽子をかぶった、顔色の悪そうな少年が
現れた。目の下には色濃い隈。
服装はどこか上品でお坊ちゃんといった感じであった。

「お前…何しにきた」

突然その少年は、明らかに迷惑そうな顔をこちらに向ける。初対面に…それも大人に向かって「お前」呼ばわりはどうかと思ったけれど、子どもなので大人げない事はしたくない。素直に応えた。

「ちょっと医学書を探しにきたんだけどね…」

そう言って辺りを見渡した。
この少年は私の言葉に突然食いついた。

「お前…医学を志しているのか?」

あまりにも幼い少年から発せられる言葉にしては、
似つかわしくない。似つかわしくないのは言葉だけではない。どこか暗く…人と関わるのが得意ではなさそうな印象がある。

誰かに似ている。私はそんな思いに囚われるが…
似ているのは、誰なのか…
そこまでは思い出せない。

「医療を専門としている船に乗っているからねぇ、どうしても必要なの」

あえて、海賊船というのは伏せて
少年の質問に答えた。

その少年は、何やら興味がわいたようで目を輝かせた。

「そうか…お前に…医療書がどこにあるか、特別に教えてやる」

そう言いながら、少年は私を手招く。

私は少年の後ろを追いかけた。
道なき、本のタワーの隙間を少年は歩いて行く。
私は大人の中でも、かなり小柄と言われている方だけれど、このタワーを壊さない様に歩くのは至難の業であった。

私を案内している間、少年は一切口を開かなかった。
少年の後ろ姿を見ながら、少し気になる点があった。

この少年の親らしき人物が見当たらない。
こんな暗い本屋で少年が一人きりというのも、
おかしな気がする。
妙に大人びていて…それでいて不健康そうなこの
少年は一体何者なのだろうか。


階段を下り、後に続くと…
鼻につく薬品の匂いがして驚く。

これは、普段乗っている私たちの船と似た匂い。
そんな匂いが本屋の地下からするのは、
おかしい。

すぐにその匂いの元凶と対面する。

地下を見渡すと…そこには、きちんと整頓された本棚
机の上にはいくつものビーカーや、私達がよく目にして来た医療器具らしきものが置いてある。

私は驚き、声を上げた。

「ここ実験施設?」

その驚いた反応に、少年も何やら嬉しそうに笑う。



笑った。

先ほどまで、完全に口をへの字にして
無愛想だったというのに、

なんとも可愛らしく思える。


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