ハート短編夢

□追いかけっこ
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「追いかけっこ」

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クークークー

カモメ達が空を泳ぎ
積雲がゆっくり流れて行く。

今日は暑いな。
だけど、昨日に比べると
少しばかり気持ちは涼しい。

というのも…

肩までかかっていた髪を
昨日シャチさんに切ってもらったからだった。

船長なんて…言うかな?

私は船長に切った髪を見せたくて
仕方がなかった。

こんな気分のいい平和な日。
船長はたいてい甲板で
寝そべっているはず…

ほらっ

やっぱり!

私が寝ている船長にかけよる。

船長…気持ち良さそうに寝ているなぁ。
起こすのは、流石にまずいから…
少し寝顔みていようかなぁ。

そんな事を考えていると
すぐに不機嫌な声がとんできた。

「何の用だ?」

私は、帽子を外しながら船長に声をかけた。

「あの…船長っ。何かいつもと違う事に…異変に気がつきませんか?」

船長になんて言われるかドキドキする。

「あ?…特に異常はねェよ、海軍も敵船もいねェ…」

まさか、このキャップをとってまでして、気付いて欲しくて、うずうずしている私を無視ですか!?

私は手にもったキャップをぎゅっと握りしめた。


「せ…船長…それ、本気で言ってますか?」

「あァ?…ほかに、何がある。特に用がねェーのに昼寝の邪魔はすんな…」


そう言って、船長は再び目をとじる。

…で、ですよねぇー船長はそういう反応ですよねー

私は残念になる気分をこらえながら、
とぼとぼと自室に戻ろうと背を向けると…

船長の声が背中にとんでくる。


「…おい…名無しさん」

「は、はいっ!」

「…お前…髪…」


船長がまさかこのタイミングで気付いてくれるとは!!
感動で目をキラキラさせて振向くと…

不審そうな顔でこちらを見ながら船長から一言。


「変だぞ…」


がーーーーん。


衝撃を受ける私を手でしっしと追い払う船長。
そして何事もなかったのように眠りに再びついた彼の姿に。

変って言われた。変って言われた。

捨て去った期待。

正直泣きたい。

船長はデリカシーというのを、どこにやってしまったのだろうか…
寝ているうちに盗まれてしまったんじゃないだろうか…


………

…………



「ってな出来事があった訳ですよ、どう思いますペンギンさん!」

私は半分ヤケになりながら、
食べ物をほおばった。
ペンギンさんは、困った様にシャチさんを見ながら
いう。

「いや…俺に言われてもな…」

ペンギンさんの視線の先には
おどおどとしたシャチさんが…

「お、俺は別に可愛いと思うぞ!元気にみえるしな!」

そう、そうなのである。
シャチさんが言ってくれるように、
前より明るい印象になったはずなのに…
何がいけなかったんだろう。

私は本気で落ち込みはじめると、
ペンギンさんは、私の頭をよしよしと撫でてくれた。


「船長が…その女の子の髪について意見するなんて事は、今まで一度もなかったからな…その、ちょっとは期待していいんじゃないか?」

「いいんですかね?変って言われたのに…」

「えっと、ごほん、何も音沙汰ないよりは…可能性がない訳じゃないんじゃ…」

「ペンギンの言う通り…一応髪について、触れられたとなりゃあ…船長が素直じゃないだけで…案外名無しさんの事が気にかかってるかも知れないぞ」

「そ、そうだといいなぁ!!」

「それと案外…追えば逃げる、逃げれば追うっていう言葉も本当かも知れないから一度試すってのはどうだ?」

「そうそう!名無しさんは犬みたいに従順に従ってひょいひょい船長の後ろばかりついていってないか…」


た、確かに

ペンギンさんとシャチさんが言う様に
私は船長を追いかけ過ぎていたのかも知れない。

“追えば逃げる、逃げれば追う”かぁ〜。

しばらく船長の側にいかない方がいいのかも知れない。
それで、船長が追っかけてくるなんて想像あまり…
いや、断じて想像できないけど…


それでも、希望にかけて
私はペンギンさんとシャチさんの言葉を信じて試してみる事にした。


「船長を追っかけるの…しばらくやめてみます!」


それに対し、ペンギンさんも笑顔でこたえ

「おう、ものは試しだ。この船にはお前以外、女はのっていないし、ライバルがいない訳だから…リスクもないしな」

シャチさんもガッツポーズで応援してくれた。

「そうそう、何事も試してみるのもいいと思うんだ!」

「一週間だけ…どうだ?」

本当にみんな応援してくれて
優しいな!


“一週間か…”

よし、
ちょっと…試してみよう!




私は意を決して船長断ち生活をはじめた。
その生活は思った以上に辛いものとなった。

船長を見かけても
挨拶ぐらいにとどめておく事にした。

本当は後ろから、ずっとついていきたいのだけど…

生活では、常にペンギンさんやシャチさんと一緒にいて船長に寄ろうとはしなかった。

なるべく業務だけしか船長と関わりをもたない生活を続けてみる。

船長の反応はというと…

正直変わらないような気がした。
とくに何か変化がある訳ではなく…

あるとすれば、
日にちが経つにつれ
近寄りがたい雰囲気が増したくらいで…

「これ…悪化してません?」

私は不安になってペンギンさんやシャチさんに聞いてみると…大丈夫だ良い兆候だとか言われるから余計にわからない。
いいから俺たちの事信じて、もう少しだけ…頑張ってみねぇ?
シャチさんに念を押され、私はなんとか我慢しつづけた。


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