白ひげ短編夢
□分かっていた事
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はぁ。
私は静かに吐息を吐き出し、
寒空を見上げた。
白ひげ海賊団の船は静かに揺れる。
冬島近くのこの場所、しかもこんな夜中に
船首近くで海を見ている者はまずいない中
私一人、遠くの寒空と海を眺めていた。
ザプン ザプン
チャパッ ザプン ザバッ
波音だけが妙に大きく聞こえ、
私の心を落ち着かせる。
こんなところに長く居ては風邪を引きかねないのは
分かっていたのだけど、あの部屋に戻るのも忍びなかった。
思い返せば、きっとずっと前から分かっていた事なのかもしれない。
「名無しさん、こんな所にいやがったのか、心配させやがって」
それは、私がまだ白ひげ海賊団に入ったばかりの頃だった。1番隊に配属されたものの、周囲に馴染めずよく船の中で姿をくらましたものだった。
「やッ、髪はやめてッ」
そして、見つけるたびにマルコ隊長は私の髪をくしゃくしゃにするのであった。
「ったく、何回言わせればわかるんだよい」
クシャクシャにしながらマルコ隊長は私に説教をする。
「や、マルコ隊長みたいな頭になるっ」
「アぁ?」
やばい、ついつい口が滑ってしまった。
「えっと、その・・・また今度」
そう言って、私は一目散にその場を逃げ出した。
「逃がさねェーよぃ」
こうしてはじまる鬼ごっこ。
はじめの内は、あの「説教バナナ」なんて思っていたのだけれど、私がグレてもグレても、しつこく見捨てず、叱ってくれる姿に、だんだん興味を持ちだした。
興味をもった私は、姿をくらますことなく、ちゃんと一番隊の活動に参加するようになった。
すると、マルコ隊長は本当に仲間思いで、誰からも信頼されている事がすぐに分かった。
そして、その人気は男女両方である事も分かっていったのである。
気がつけば、私もその中のひとりであった。
ぐれた行動をしなくなってからは、マルコ隊長に視線を向けられることもなくなってしまった。
だからといって、彼の視界に入りたいというだけ事を荒立てるなんて子供すぎる。
彼の視界に入るには、頑張って一番隊の顔とも言えるようにならなきゃ。
そして、私は彼の視界に入るためだけに
努力を重ねた。
実力を身につけるため、戦闘訓練を絶えず行った。
本を読みふけり、必要な知識を蓄えた。
マルコ隊長の右腕になりたかった。
そして・・・月日な流れ
ようやく
マルコ隊長に認められ
私は念願の右腕となれた。
「名無しさん、お前はずっと俺の隣にいてくれよぃ。頼りにしてる」
そう言ってもらえたのだった。私は歓喜した。
マルコ隊長の視界に入れた、これからはずっと入っていられる、私を頼ってくれる。その幸せに私は酔いしれた。
幸福感が体中を伝い幸せで満腹状態になっていた。
「名無しさんさん?ですよね?」
ある日、見慣れない可愛らしい女性が私に笑いかけた。
「え、はい。そうですけど、あなたは一体・・・」
すると、マルコ隊長が今までに見せたことのない、
照れ笑いで彼女を紹介した。
「こいつは、つい先日の島で再開した俺の元恋人だよぃ」
「もぅ、マルコっ元恋人だなんて、元は余分でしょう?」
「あぁ、再開したときまた付き合う話になって付き合うことになったんだよぃ。こいつが、俺の女ってわけなんだけどよぃ、戦闘には秀でてなくてなァ・・・そこで、右腕である名無しさんに頼みたいんだが、俺の代わりにこいつを守ってやってくれねェか?」
そっか・・・私は右腕になれたけど、
マルコ隊長に女としては見られてなかったんだ。
期待のこもった眼差しでマルコ隊長は私をじっと見た。その視線は仲間を思う熱い眼差し。
返答を待っているマルコ隊長。
結局私は、期待を裏切るなんてできなかった。
それが自分の首を自分で絞める結果になっても。
ざぷん、 ざぷん
感傷に浸って過去を思い出していたが、
流石に夜風の寒さは身を凍らせた。
もしかして、今感じているのは心の寒さなのかも知れない。
分かっていた。
マルコ隊長がはじめっから私を女性として意識したことがない事くらい。
分かっていたんだ。
それでも、あなたの特別になりたかった。
私にできる特別はマルコ隊長の右腕だった。
だから、もう・・・
恋心にさよならを告げた
end.