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□Take the Fortune by the forelock.
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※13話ネタ


いつものように学校も極々普通に終わった日の放課後。
俺は帝人の家に遊びに来ていた。何となく無理矢理俺が押しかけたとも言える様な気がするけど、そんな事は気にしない!

普段は特に何がある訳でもなくどちらかの家で過ごす事が多いけれど、今日の俺には大きな大きな目標がある。…いや、これを大きな目標って言うのも少ーし寂しかったりすんだけど。でも今の俺にとっては死活問題なんだ。
お昼休みに屋上から覗いたあの2人、帝人と同じクラスの、確か張間美香って子と矢霧誠二ってヤツみたいにラヴラヴするって目標が!
ちなみに、ラブラブじゃなくてラヴラヴ、な。ここポイント!



Take the Fortune
by the forelock.




「あー、今日もあの2人相変わらずラヴラヴいちゃいちゃしてたなー」
「うん、そうだね」

俺もあんなふうにしたいなーとか、うらやましいなーとか、色々と意味を含ませて発した言葉に、そう一言だけ素っ気無い返事を返して今読んでいる漫画から目を外す気配を微塵も感じさせないのは、れっきとした俺のコイビトの竜ヶ峰帝人。

帝人が素っ気無いのは今に始まったことじゃないし、帝人が俺の事ちゃんと好きだって言うのはよくよく分かっている事だから別にいいんだけどさ。
でも、こう、毎回毎回こんな態度だと俺もちょっと寂しいって言うかー、時には思いっきり甘えて欲しいとか思うんだよな。

「なあ、帝人、みーかーどー」
「…何?」

わざとらしく子供の様にじたばたと駄々をこねる正臣に、帝人もこれでは落ち着いて本も読めないと思ったのか、今度は持っていた月刊誌をページが分かる様に横に伏せ置いて正臣の方に向き直る。言葉の前に若干溜息みたいなものが聞こえたような気がするが、この際それは無視をする事にした。

「俺たち恋人だよな!」
「うん、まぁ……そうだね」

その間がものすっっごく気になるが、それもあえて無視をする!

「じゃあじゃあさ!俺らもあの2人みたいにラヴラヴいちゃいちゃちゅっちゅっってしたらいいと思わないか!?」
「思わない。て言うか、何かさっきより余計なの増えてない?」

ばっさりと俺の願望を切り捨てる帝人に一瞬怯んだけれど、ふと今の言葉を思い返してみれば。あれ、あんなお前の話なんか聞いている暇は無いみたいな態度してるけど、帝人ってば俺の話意外と聞いてくれてる?
そうなれば、後は押して押して押すだけだ。なんやかんや言ったって、帝人はいつも最後には仕方ないなって許してくれるんだから。

「なあなあなあ」

「俺たちもイチャイチャしたいー!」

「みーかーどーっ!」


「嫌だよ」


(くっ…なかなか手強い…!)

俺の話を聞いてるのかいないのか、(きっと聞いてくれてはいるんだろうけど、)なかなかうんと言ってくれない帝人に、…俺は痺れを切らして思いっきり帝人の腕を引っ張った。

「わっ!ちょ…正臣!」
「え、わっ…!」

思いっきり引っ張り過ぎた、と思った時には時既に遅く。正臣は帝人の体重を受け止めたまま勢い良く後ろに倒れこんだ。と同時に、鈍い音がする。

「ってて…」
「ちょっと…正臣大丈夫!?」

俺の所為で今こんな事になっているのに、俺を心配して慌てて起き上がろうとする帝人に、ああ俺愛されてるなぁなんて思っちゃうけど、今腕の中ある温もりを放したくなくてそのままぎゅうっと抱き込む。後頭部に鈍く痛みが残っている感じにもするが、そんな事は特に気にならない。

「…正臣、頭打ったんでしょ?」
「打ってない」
「さっきゴンって聞こえたけど」
「気のせい気のせい」
「でも、」
「…いいから、じっとしてろよ」

相変わらず落ち着かない様子でそわそわと声を掛けて来る帝人を制する様にさっきより一際強く帝人の身体を抱き締める。するとやっと観念したのか、ようやく俺の腕の中に大人しく納まってくれた。

「正臣…重くない?」
「帝人の重みだから、へーき」
「何それ」

重く無いかと問われれば、人一人の重さを上に乗っけてる訳だから、重く無くは無い。でもそれが帝人の重みだと思うと、それさえ愛しいし、心地いい。

「帝人、みかど」

名前を呼んで帝人の首筋に顔を埋める。
一度掴んだこの温もりを、二度と俺は放さない。何があっても、絶対に。

帝人の重みと温もりを再度確かめる様に掻き抱いて、俺はそう心の中で呟いた。



end.
(どうかどうか、俺から離れて行かないで)



「Take the Fortune by the forelock.」=運命の女神は前髪しかない。=通り過ぎたチャンスは後から掴めない。=今訪れた幸せを逃がすな。
そんな感じの意味です。確かイタリアかどこかの諺だった気がします。

2010.5.19 響城そら


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