ブック(ネタ)
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「なあナマエ。お前も調査兵団に行きたいって本当か?」
今日も不味い夕食を黙々と食べているとエレンが夕食を持って私の隣の席についた。いつも一緒のミカサとアルミンはどうしたんだと思ったが今日の食事当番は彼らだと思い出した。それでエレンが1人でいるのだろう。納得したところで口の中にあったパンを飲み込んでエレンの問いに答える。
「本当だよ」
「マジかよ。なあなんでナマエは調査兵団に行こうと思ったんだ?」
私が肯定するとエレンがキラキラと嬉しそうな表情でそう言ってきた。そう言えばエレンも調査兵団志望だったな。巨人を駆逐したい駆逐したいって騒いでる変わり者だ。ジャンには死に急ぎ野郎って呼ばれてる。ということは私も調査兵団を志望しているってことは変わり者と思われているのだろうか?それは不本意だ。
「出世したいからかな」
「出世?巨人を駆逐したいからじゃないのか?」
私の答えにエレンがキョトンと不思議そうな表情で聞いてくる。いやいや、誰もかれもがお前みたいな巨人厨じゃありませんから。できるなら巨人とは関わりたくないよ。私は死に急そいでませんから。
「うん、私は出世して美味しいものを食べて幸せに暮らしたいの。だから調査兵団に行く」
「飯を食いたいから調査兵団に行くなんて変わってるな。サシャみたいだ」
「サシャみたいな欠食児童と一緒にしないでくれ。私は美食家なんだ、食べれたら何でもいいってわけじゃないよ」
「旨いもん食いたいなら憲兵団に行けばいいじゃねえか。なんでわざわざ調査兵団に行くんだよ」
エレンと話しているとジャンが参戦してきた。横でエレンがムッとしたのを感じる。ジャンとエレンは仲が悪い。頼むから私を挟んで喧嘩とか始めるなよ。
「調査兵団なんか行ってもうまいもん食えるどころか巨人の餌になっちまうぞ?そんな死に急がないで憲兵団に行けよ。ナマエなら行けるだろ?」
「ナマエは調査兵団に行くんだよ!ビビって内地に行くなら1人で行けよ。ナマエを巻き込むな!」
「なんだとエレン!それならお前だって1人で死に急ぎげよ!ナマエやミカサを巻き添えにするんじゃねぇ!」
「なんだと!」
私の頭上でジャンとエレンが言い合いを始める。もういつ喧嘩に発展してもおかしくない。やめてくれよ二人とも。お前らに巻き込まれてキース上官のお怒りを受けるのはごめんなんだ。
私はスープを口に含む。今日のスープも相変わらず不味い
「ナマエはどっちに行くんだよ!調査兵団だろ?」
「ナマエ止めとけ。死に急ぐなって。一緒に憲兵団に行こうぜ?な?」
二人の矛先がこちらに向いた。まあ元々私の話だし結論を私に求めるのもいいけど私の答えは決まってるよ?さっき言ったじゃないか。
「私は調査兵団に行くよ」
「よっしゃー!ほらみろー!」
「はぁ?ナマエお前まで死に急ぐのかよ?何でだよ、憲兵団の方が豊かに暮らせるぞ?」
勝ち誇るエレンと不満そうなジャン。なんと言われても結論は変わらない。他人の意見なんかでこればっかは決めれない。何て言ったって自分の命が掛かっているのだから。
「憲兵団に行っても最低水準の食事が変わるだけで美味しいものが食べられるわけじゃないだろ?完全な年功序列型の組織だし出世も出来そうにない。だから憲兵団はごめんだね」
「だからって調査兵団はねぇだろ?旨いもん食う前に巨人の餌になっちまうじゃねぇか」
「それならそれで仕方ない。死んだらそれまでだってことさ」
そういうとジャンがギョッとした表情でこちらを見てきた。何かおかしいことを言っただろうか?当然だろ。何のリスクもなしに夢を叶えられるとは思ってないさ。
「私は自分の夢を叶えるためなら命を掛けられる。その為に戦ってそれで巨人に食われたら仕方ない。それは私が弱かったってことさ。諦める」
「うまいもん食うためなら巨人に食われたっていいのかよ」
「いいよ。むしろ美味しいものを食べられないなら死んだ方がマシだ」
あの世界を知らなかったら平凡な日常で満足することも出来たかもしれないが今の私に我慢なんてできない。
食に溢れたあの幸せな世界と同じだけの幸福を得るまで私は戦い続ける。例え巨人に食われてもこのままでいるよりはマシだ。こんな飢餓を味わい続けるなんてそんな拷問には耐えられない。
ジャンは一言お前も死に急いでやがるというと立ち上がり何処かへ消えた。失礼な奴だ、死ななければいいのだろ?巨人なんかやっつけて私は幸せになってやる。
ジャンはいなくなったがエレンはまだここにいた。エレンはジーと何か考えると口を開いた。
「ナマエは出世しておいしいもんを食べたいんだよな?それって本当に出世するとできるのか?」
「できるよ。だって出世したらその権力を使って美味しいものを手に入れるから」
「はあ?!」
調査兵団といえど上官になればその権力はかなりのものだろう。それに今は壁が壊され調査兵団の発言力も強まっている。少なくとも私の食欲を満たせるだけの力くらいはあるはずだ。内地から美味しいものを取り寄せて私腹を肥やす。うん、幸せだ。
「そんなことに調査兵団の力を使うなよ!調査兵団の力は巨人を駆逐するために使うべきだ!自分のために使うものじゃない!」
「でも私はその為に命をかけるんだ。自分の命を掛けてすることなんだから誰にも文句を言わせないよ」
「でも!」
私の命を掛けて手に入れた権力なら私がどのように扱おうと私の自由だ。それにかわいい願いだろ?美味しいものが食べたいだけなんだから。
それでもエレンには納得できるものではないらしい。本当にエレンは聖人君主か何かの生まれ変わりなのかな?私は人類の為になんて心臓は捧げられないよ。他人の為に巨人とは戦えない。
エレンのいうことは間違っていない。でも私の考えも間違ってないと思うんだ。ならさ、
「じゃあエレンが私より先に出世したらいいんじゃないの?」
「え?」
「たくさん巨人を倒してエレンが私より出世するばいい。そうしたら私が勝手なことしてもエレンが上官なのだから押さえつければいい」
「‥‥」
「ご馳走さま。じゃあねエレン。またね」
食べ終わった食器を持って立ち上がる。エレンは動かない。自分の冷めた夕食を見つめ黙っている。
私は食器を持って流しに向かった。ああ、ライバルを鼓舞するようなことするんじゃなかった。ましてエレンにはミカサがいる。本気になられたら勝てないだろうな。
まあ何が立ちはだかろうと私のすることは変わらない。私は幸せになる。その為ならなんだってする。
台所に向かいながら明日の食事当番がコニーなのを思い出した。ああ、明日のご飯も不味そうだ。
ーendー