ブック(ネタ)

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私はその後ふらふらとした足取りで家に帰った。部屋に入ったところでふーと息を吐き出しそのまま床に座り込む。精神的にも肉体的にも疲れていた。喰種に襲われそして身近な人間が喰種だと知ってしまったのだ。人生でここまで恐ろしい目にあったことはない。これから先にもないんじゃないだろうか?そうであってくれ。もうこれ以上大変な目になど遭いたくない。今日で私の不運使いきって残りの人生を幸せなものにしてください。

さて、計らずも複数の喰種の潜伏場所を見つけてしまったわけだがどうしよう。善良な一般市民であるなら当然CCGに通報すべきだろうが彼らは私を助けたせいで正体がバレたのだ。それなのに私が彼らをCCGに通報するのって人としてどうよ?命の恩人に対する対応じゃないわ。仁義には報いるべきだと思います。

しかし彼らが喰種ということは人を襲い食らっているということだ。私はたまたま彼らにとって価値があったから手は出されないが彼らが存在する限りその分命を失う人がいるだろう。私が生きているのは人間の世界で私は人間なのだからCCGに通報することも人として必要なことに感じる。

彼らとこれからどうやって接すればいいのか、それからCCGに通報すべきなのか、グダグダ考えるとチュンチュンと窓の外からスズメの鳴き声が聞こえてきた。よく見ると部屋が明るい。どうやら日が昇り始めたようだ。え、もう朝なの?私徹夜してたのかよ。今日学校あるのに貫徹状態の身体で授業受けないといけないの?そんなもん無理だわ。寝ます。

もういっそサボって今から寝るかと思わなくもないが横になってもあんていくのことが気になって眠りにつけない。というか喰種のことが気になりすぎて授業だって頭に入らんわ!もういい。今日は学校をサボろう。理由は喰種に襲われて精神的にまいってるからです。嘘ではない。全くもって嘘ではない。よく考えなくても私よく生きてたな。ちょっとキー助を抱きしめてみる。腕の中でぶにゃーと可愛くない声で鳴いた。なんか私も泣けてくる。生きてるって素晴らしい。

やっぱり彼らをCCGに通報するのはない。あり得ない命の恩人にそんなことはすべきではない。だけどもこれから冷静に彼らに接することができる自信もない。

いっそバイトやめるか。それはありかもしれない。金木とも今期の授業が終われば接する機会はもうないだろう。あんていくをやめれば彼らとの接点は完全になくなる。それはいいかもしれない。かかわるべきではないのだ。彼らと私では世界が違う。

ふとあんていくでの出来事が頭に浮かんできた。来る客は変なの多かったけどトウカちゃんはなんだかんだ言って優しかったしマスターのコーヒーはおいしいし金木も色々雑務手伝ってくれたしいいバイト先だった。色々大変なこともあったがそれでも私の大したことない料理をおいしいおいしい言って食べてくれたのは本当に嬉しかったな。まるで高級料理食べてるように喜んでくれるんだもん。感想はアレだが。

そういえばあの人たち私の料理を進んで食べるってことは人食べるのそんなに好きじゃないのかな?案外私が料理してるときは人食べてなかったのかも。おう、やべえ。すごいことに気づいたかも。つまり私は世界を救う才能があるってことですね?もしかしたら喰種が人を襲わない時代が来るのかも。

いやでもそこまで頑張りたいとは思わないな。世の中にどんだけ喰種いると思ってるんだよ。私だけで賄えるわけがない。無理。それに私はそんな不特定多数の奴らに料理をふるまいたいわけではない。私が食べてほしいのはあんていくの面々だけだ。

・・なんか自分の中で答え出たかもなー。CCGに通報はなし。でも喰種にかかわるのはチキンハートなので無理。だから私の出した結論はこうだ。私は財布を持って外に飛び出した。







あんていくの空気は重かった。最近よその地区の喰種が20区にやってきて食い場を荒らしているということでトウカとカネキは四方達とともに20区を見回りその喰種を探した。

件の喰種はすぐに見つかった。カネキがトウカとともに見回りをしていた夜そいつは現れた。ちょうど狩の真っ最中だった。

襲われている相手は見覚えがあった。ミョウジナマエだった。ただの人間だけれど喰種の食べれるものを作ることのできる不思議な女の子。彼女のおかげで食を知れどれだけの喰種が救われただろう。トウカちゃんもヒナミちゃんも人の食べ物を食べられて感激していたしカネキ自身も人らしく生きることができて救われた。彼女の料理を食べた喰種は一定の時間人を食べなくても大丈夫らしく20区の人の死亡率が激減した。彼女は気づいていないだろうが喰種も人も多くの者が救われているのだ。彼女は恩人だった。

カネキは反射的に飛び出した。だがそれより早くトウカがカグネを広げておりナマエを襲おうとした喰種に攻撃をしかける。それは喰種に十分すぎる打撃を受けたようだ。血を流し腕を押さえている。

ふと見るとナマエが呆然とカネキたちを見上げていた。マスクはしているがトウカはともかくカネキのマスクはカネキの身体的特徴を押さえており知り合いに見られればカネキだとバレかねない。

長居するのは危険だと喰種を連れてその場を去る。その時カネキはナマエと目があった気がした。背筋が凍る。

目が合っただけだと自分に言い聞かせながら不安が拭えない。もし自分の正体がばれたのだとしたらトウカはナマエを殺しかねない。いや、それ以前にもしバレたのだとしたらCCGに通報されあんていくが危険にさらされるかもしれない。

マスターに事の概要は報告した。マスターはばれてしまったのなら仕方ない。人である彼女を引き入れてしまったのは私の責任だ。君たちの気にすることではない。とそういった。

ナマエをどうするつもりなのかは言わなかった。カネキは不安でいっぱいだった。もしナマエが死ぬことになったらこの店に誘った自分の責任だ。元人間のカネキは人の命を軽く扱えない。

ナマエに正体がバレてしまったかもしれないとあんていくの雰囲気は重かった。取り敢えずマスクを見られただけでカネキだとわかる可能性も低いし様子見をすることになっている。ナマエは今日学校にこなかった。喰種に襲われたことを考えればおかしくないがそのことがカネキの不安をさらに煽った。

お願い気づかないで、と思いながら店の清掃をしているとガチャリとドアが開き誰かが入ってきた。お客様かな?と思い振り向くとそこには大きなトートバックを持ったナマエが立っていた。



「ミョウジさん、あ、あの今日はシフト休みじゃ、」


「シフトは入ってないけどちょっと用事があってきた。カネキもうすぐ休憩だよね?終わったらちょっと裏に来てくれ」



そういってちょいちょい手招きするとカネキはびくっと肩を震わした。こいつ本当に喰種なのか?なんかびくびく怯えているしとても食物連鎖で人間の上に立っている種族とは思えないぞ?なんか私の勘違いだった気もしてきたがそれならそれで不都合もないし別にいい。店長に頭を下げて中に入る。休憩室でピコピコスマホで遊んでいたらしばらくしたらカネキがやってきた。驚くほど顔色が悪い。こいつ大丈夫か?たぶん私に正体がばれたかもと思って緊張しているのだと思うけどなんでびくびく震えるのがお前なんだよ。私じゃないのか。十人十色、喰種にもビビりがいるということがわかりました。こう考えると喰種も案外普通なのかもしれん。人を食べるところだけがおかしいです。



「あの、用ってなにかな?」


「うん、ちょっとこれ見てくれ」



そういって徹夜の眠たい目を擦りながら作った大きなハンバーグを差し出す。作ってからさほど時間もたっていないしアツアツで入れ物であるタッパーを曇らせている。実においしそうなハンバーグだ。我ながら素晴らしい出来である。



「こいつを見てどう思う?」


「えっと、おいしそうだと思うよ」


「そこはすごく、大きいですといえよ。空気が読めない奴だな」


「ええ!?」



そういうとカネキはすごく困ったような顔をした。ふむ、まあこのネタを文学純情少年のカネキが知ってるわけがないので無茶な要求だったね。言ってみただけです。逆に知っていたほうがビビる。え、君新宿2丁目の人間なの?喰種だったことよりもびっくりだわ。



「まあそれはおいといて取り敢えず食べなさい。お腹すいてるよね?」


「お腹はすいてるよ。えっとじゃあいただきます」



そういうとカネキは私の作ったハンバーグ(デミグラスソース味)を食べ始めた。非常においしそうに食べている。どうやらお腹がすいているという言葉は本当らしい。カネキはある程度ハンバーグを腹に収めると口の中を空にし口を開いた。その顔には困惑の色が出ている。



「美味しいけどどうして急に僕にハンバーグを作ってくれたの?本当に嬉しいんだけど突然どうしたの?」


「気にするな。ただの礼だ」


「お礼って、僕お礼をされるようなことしてないと思うけど」



そうはいうもののカネキは青ざめている。このタイミングのお礼として思い浮かぶことはあのことだったからだろう。こいつ本当にわかりやすいな。それについては否定も肯定もせずに淡々と会話を続ける。カネキは喰種かもしれないがまったく怖くない。



「まあそれについては深く考えるな。礼は礼だ。ここは素直に受け取っておいてくれ」


「う、うん。ありがとう」


「私はあんていくが好きだよ」



カネキがハンバーグを口にした瞬間そういったためカネキが咳き込んだ。落ち着くのなんか待ってやるつもりなんかないのでそのまま早口に言葉を吐き出していく。言いだすと止まらない。言葉はするする私の口から出ていった。



「私はあんていくが好きだよ。トウカちゃんかっこいいしマスター優しいし給料もいいしコーヒーうまいしやりがいもあるし本当にこの喫茶店が好きだ」


「ごほっ、ミョウジさん」


「この喫茶店を紹介してくれてありがとう」



そういうとともに席を立ちカネキに背を向け部屋からでる。後ろからゴホゴホと咳き込む音と何かを啜る音が聞こえたが聞こえなかったことにする。いい女の条件とは時に見て見ぬ振りのできる奴のことなのだ。私って本当にいい女だ。そしてカネキは泣き虫だ。


私の選んだ選択は結局見て見ぬふりをすることだ。知ってるけど知らないふりをする。彼らの秘密を共有するほどの重しを背負うことは私にはできないしだからといって彼らと完全に袂を別つのも嫌だと思った。その結果選んだのがこの選択だ。ただの現状維持、私は何も選ばないことにした。

これから先彼らが喰種だとわかる決定的瞬間を知りえない限り私はここに居続けるだろう。そしてもしそれを知りえた時にはここを去るだろう。私は彼らのすべてを受け入れられるほどできた人間ではない。やはり喰種と人間は捕食するものとされるものなのだ。そうと知って共存することなどできない。

だけどそうだとわかるまではここにいようと思う。それくらいに彼らのことが好きでこの場所が心地よかった。

とりあえず料理の腕でも磨いてみるか。喰種の食べれるもの作れるなんて今更ながら本当にすごい才能だ。でもこの技能があってよかったよ。そのおかげで私は今結構幸せだ。


あんていく、ここは20区の喰種の集う喫茶店。従業員はみんな喰種ばかり。

そんな店でアルバイトをしている私はそれなりに楽しく生きている。次はお菓子作りにでも挑戦してみるか。トウカちゃんがケーキ食べてみたいって言ってたし。うん。この店で働きだしてからほんと私の女子力があがったな。まあいっか。


ーendー

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