ブック(ネタ)

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「信じられねえ。味がある」


「これがから揚げの味なんだ。これで依子に今度からもっとうまく感想いえるわ」


「なんか感嘆深いな。食事ってこういうものなんだ」


「こらこら、皆ミョウジさんの前だぞ。慎みなさい」


「はは、いやお構いなく」



放課後金木との約束通り彼の勤める喫茶店『あんていく』に行き、そして何故だかわからないが料理することを求められたので適当なものを作りふるまう。正直店員の感想が馬鹿にしているようにしか見えなくなにこれイジメ?と思いながらこんな場所に連れてきた金木に呪念を送っていたのだが何が気に入られたのかマスターにここで働かないかといわれた。いや、調理師の免許とか持ってませんよ?ただの一般大学生ですと若干無理ですよオーラを出しながら断ろうとしたのだがマスター&従業員たちにどうしてもと懇願された。お前らその感想でおいしいと思ってたのかよ。主な仕事は従業員の食事の準備とお客様が希望した時だけ食事を提供する所謂裏メニューというものを担当してほしいといわれた。え、ハードル高いな、私にできる自信ないわと悩みながら結局『あんていく』でバイトすることにした。決め手はあれだね。時給が良かった。東京といえど時給1200円は高いです。あと制服姿の西尾先輩がかっこよかったのも要因にいれとこう。西尾先輩なんで彼女いるんだろう。フリーになったら是非教えてください。

そんなわけで『あんていく』でのアルバイトを始める。表向きは順調に馴染めていってると言えるだろう。時折モデルのようなイケメンにトレビアン言われながら絡まれるけど順調だ。その度にトウカちゃんが助けてくれるので問題ない。トウカちゃん高校生なのになんであんなに強くて格好いいんだろう。惚れてしまいます。私をそっちの道に引きずり込まないで。まあそんなわけでお金は貯まるし美味しいコーヒーを淹れられるようにもなったし生活はとても充実していた。こんないいバイト先を紹介してくれたカネキに無償でハンバーグを作ってやってもいいと思えるくらい私は機嫌がよかった。だが不幸というのと突然やってくるらしい。『あんていく』からの帰り道、私は喰種に襲われた。




「うへへ、久しぶりの飯だぜ。しかも若い女とはついている。うまそうだ」


「あ"、ああ‥」




私はいきなり現れた喰種を見てガタガタ身体を震わせる。『あんていく』からの帰り道突然喰種に襲われた。逃げることはできない。最初に襲い掛かられた時驚いて足を挫いてしまったのだ。私はいざという時に失敗するタイプだよな。こんなときまで失敗したくなかったわ。だって命の危機に瀕してるんだよ?これはもう終わったよ。

目の前の喰種はフーフー荒い息を繰り返している。これから私は食べられるのだろう。できれば天寿を全うしたかったわ。役立たずな声帯は助けを呼ぶこともしない。家で私の帰りを待っているキー助はどうなるんだろう。のら猫に戻るのだろうか?あいつがダラでデブだから絶対に狩りとかできないよ。誰かイイ人に飼ってもらえるかな。こんなことならカネキでもいいから恋人作ってリア充生活を満喫しとくんだった。喪女のまま死ぬとか辛すぎる。やりたいことはいくらでもあった。死にたくない

喰種の手が私に向かい伸ばされる、その瞬間だった。視界の中を何かが横切った。それが何か知る前に目の前にいた喰種が呻き声を上げた。見ると腕を押さえている。出血していた。

はっとし上を見上げると新たな喰種が2体民家の上に立っていた。背中のカグネがギラギラと光っていて目の前の喰種を攻撃したのはあの喰種達だと悟る。2体の喰種はそれぞれ仮面を被っており一人がファンシーなウサギの仮面を、もう1体が片目を覆い歯茎を剥き出しにし骸骨を連想させるような黒い仮面を身に付けていた。

仲間割れ?いやそういえば治安の悪い地区では共食いをする喰種がいると聞いたことがある。この2体もその類いで喰種を狩っていた?

だが喰種を狩る喰種がいたとしても人間が主要食物であることにはかわるまい。私の死亡フラグは依然たったままだ。

だが2体の喰種は地面に降り立つと私を襲った喰種を抱えそのまま去っていった。夜の町に見えなくなった。私は唖然とした。

助かった?喰種が私を助けた?いやいやいや!

おかしいだろ!?普通喰種に襲われている時に都合よく共食いの喰種が現れてしかも私を助けるだけ助けて食べないで消えていくとかあるか!?ありえないだろ!私はピンチの度に助けがくるヒーロー物のヒロインじゃないんだぞ?これはおかしい。絶対におかしい。

そして私は一つ気付いてしまったことがある。それはあの片目のマスクを被った方の喰種、あの喰種の赤かった目は金木がいつも眼帯で隠している方の目の位置と同じだということだ。

思えばあの片目野郎の背格好は金木に似ていた。そう考えるともう1体のウサギの仮面の方はトウカちゃんの体格にそっくりだった気がする。

私は今とても恐ろしい想像をしていた。それはあの『あんていく』は実は喰種の集う店で従業員はみんな喰種だったのじゃないかって。

そう考えれば私の作った食事に関する感想がおかしかったのにも頷ける。食べたことないなら味についてうまく表現できないのは納得だ。あれ?でも喰種って人間の食べ物は食べれないんじゃなかったっけ?あいつらむしゃむしゃ食べてたぞ。

いや食べれないんだ。普通は食べれないんだ。でも何故か私が作ったものは食べられたんだ。だから私はあの店で重宝されたんだ。なんかわからんが私は喰種の食べれる物を作れるという特殊技能があるらしい。なんでそんなものがあるんだろう。わからん。この技能って就職有利になりますか?

色々思考してこの結論がすとんと自分の中に落ちた。あんていくの人達は喰種だ。そして私が同じ店で働く仲間だからか食事を作れる貴重な存在だから助けてくれた。たぶんこれが正解だ。

ど、どうしよう。身近にこんなに喰種がいたなんて。ああ、頭がまわらん。本当にどうしよう。

道の真ん中にへたりこみ呆然と現状を知る。私はとんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。


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