ブック(ネタ)

□世界で二人だけの僕ら
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私の母は人間で、父は喰種だった。母は父が喰種だということを知ってなお父と共にいた。食物連鎖の上位互換の位置にいる彼らが何故そのようになれたのかはわからないが彼らはともにいた。そして私が生まれた。

それぞれの血を半分ずつ受け継いだからか私の赫眼は右目にしか現れなかった。隻眼の喰種となった。

隻眼の喰種は何か特別な意味合いがあるらしいが両親は教えてくれなかった。私も特に興味なかったから聞かなかった。両親ともに恵まれ幸せだった私にとってそんなことはどうでもよかった。私は優しい両親に囲まれ穏やかに育った。

そんな日常が変わったのは父親が死んでからだ。父親は白鳩に目をつけられ殺された。

幸い父と母は籍を入れてなかったので私の存在はバレなかったが後を追うように母親も衰弱し死んでしまった。突然私は孤独になった。

半分とはいえど喰種の血が入る身の上では人間の施設を頼ることもできない。それまでは学校にも通っていたが行くことはできなくなった。私は一人で世界に放り出された。

金銭は両親が残してくれたものがそれなりにあったがそれより私を蝕んだのは空腹だった。喰種である私は人の肉を食わなければならない。今までは父が用意してくれたがこれからは自分で狩らなければならない。だが私は人を襲うことが嫌だった。

私は学校にも通っていたし人の友達も多くいた。母も人間であったし喰種より人の思考を持っていた。だから人を殺すなどあり得なかった。

私は飢えた。飢えて飢えて餓えた。そして気が付けば血だまりの中に立っていた。理性を焼き切られ本能が勝ったのだ。私は人を殺し喰った。自分が人間でないと嫌でも実感した。

人として生きれないならば喰種として生きなければならない。だがそれもうまくいかない。人に対して好意を抱く私は喰種として異端だった。喰種にとって人とは家畜でしかない。

人としても喰種としても私の居場所はどこにもない。私はこの世で一人きりの種族だ。

まあそんなわけで誰にも理解されず世界に投げ出された私はあれだ、グレた。

ただでさえ盗んだバイクで走り出すようなナイーブなお年頃なんだよ?それなのにそんなひどい目に遭えばそりゃ人格形成に影響が出ますって。そんなわけで私は人間不信喰種不信になって荒れに荒れた。自分を捕まえようと襲ってくる白鳩たちを返り討ちにし美味しそうな匂いがすると襲いくる喰種どもを逆に食ってやり私は強くなった。元々何故だが私にはそれなりの力がありこれが隻眼の喰種の力なのかと不思議に思ったが生きていくのに力は邪魔にならないので有難く感受する。だが私が隻眼の喰種というのがバレると人間や喰種に目を付けられるので仮面をかぶりそれを隠した。私が隻眼の喰種であると知ったものは残らず殺してきた。そんなわけで欲望のままに人や喰種を食いそして時折慈善活動などしながら生きてきたらなんかいつの間にか無法者のリーダーのようなものになっていた。意味がわからん。

それなりに人に恨まれそれなりに人に慕われ始めた頃ふと本部の白鳩を倒した隻眼の喰種の噂が上がってきた。20区にいるらしい。

それを聞いたとき酷く胸が高鳴ったことを覚えている。私以外にも隻眼の喰種がいるなんて。その時の感情をなんと表現すればわからないが私は嬉しかったのだと思う。自分の同種がこの世にいることが嬉しかったのだ。

直ぐ様私は彼にコンタクトを取ろうした。だが私があんていくへ行ったとき彼は11区に連れていかれたといわれた。諦めきれなかった私はその救出に同行しやっと会えた隻眼の喰種、金木研は白髪でそして内包する狂気を静かな仮面で押さえつけるそんな空気を醸し出す男だった。

力を求め仲間を欲する彼に私は下った。彼の思想に共感したとかそんな高尚な理由ではなくただ彼の側にいたいと思ったからだ。強くて何処か脆い彼の側にいれば私の弱さが慰められる気がした。






「私の父は喰種で母は人間だった。だから私は生まれながらの半喰種だから君と違うと言えば違うのかもしれない」



カネキと背中合わせに地面に座り込みそうポツリとそう溢す。互いに手合わせをした後だからこの場には血と汗の臭いが漂っていた。だけれども不思議と不快ではない。私は血生臭い空気の中淡々と言葉を続けた。



「だけど私は君を見付けて嬉しかった。同じ種に、仲間にやっと会えたと思った。カネキはどう思った?」


「わかりません。僕は貴女ほど半喰種になって時間が経っているわけではありませんから。でも貴女自身のことは嫌いではありませんよ。貴女からは裏切りのオーラを感じないので」



カネキは抑揚のない声でそういった。カネキには私ほどの感動はなかったらしい。それは残念だ。私は彼にも喜んで欲しかったというのに。

だがしかし喰種になって1年足らずのカネキに同じ思いを共感しろというのは酷だろう。だけれどもカネキも寂しさを感じているというのは言動の節々から伺える。裏切りを気にするのはそれを味わった孤独を知っているからだろう。やはり彼は私と近いと思うのだがカネキはわからないらしい。すこし虚しい



「私は裏切らないよ」


「そうですか」


「そうですよ。だって君といると私の孤独は埋まるからね。君だけが私の本当の気持ちを理解できる」



そういいながらカネキに寄り掛かるように背を寄せる。カネキからの反応は返ってこなかった。私は背中の温もりを感じながら静かに目を閉じる。人や喰種には感情がある。そして彼らは想像することができる生き物だ。

他人の痛みを想像し同情し慰める事ができる。だけれども本当にその痛みを理解できる人は同じ痛みを負った人だけだ。知らない者にその痛みは語れない。

だから私の痛みを知れるのはカネキだけだろうしカネキの痛みを知れるのも私だけではないのだろうか。今は彼を身体的に支えることしかできないがいつか私が彼の側にいることで癒されたように彼の精神を支えたい。それが私が彼から受けたものの礼となるだろう。

現在は彼の背中に寄り掛かるだけだがいつか是非私の背中にも寄りかかってもらいたいものだ。そうなれば私はより満たされる気がする。

彼を満たし満たされたい。虚無感を埋めたいと思うのは人間でも喰種でも半喰種でも同じではないだろうか。

後ろ向きで顔の見えない表情を想像し苦笑する。たぶん私は彼に愛されたいのだ。


ーend

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