ブック(ネタ)
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私と金木研とはただの同じゼミ生というだけの間柄だ。それ以外に接点があるわけでもなく互いに名前を知っているだけの関係だった。
私は金木研になんの興味を抱いていなかった。ただゼミの教授に金木くんは事故に遭ったそうでしばらくゼミを欠席しますといわれた時へー、大変だなと身近な人間に不幸があったことになんとなく非日常を感じた、その程度の関心だった。
金木研はしばらくすると再び復学してゼミにも顔を出してくるようになった。その時から事故の後遺症なのか左目に眼帯をしていて私はキャラが立ってるんなと思うだけだ。そうこれだけだ。私と金木研を結ぶ間柄はこれだけだった。
それが変わったのはゼミでペアでこなさないといけない課題がを出てさらに私の相手が金木研になってしまったからだ。
正直気分は最悪だ。なぜなら金木研はいかにも文学少年というタイプの人間で活字は睡眠学習にしかなりません系女子の私と気が合うはずがないのだ。しかも金木研は学校を休みがちで課題が進まない。私はイライラした。
それでもなんとか金木を捕まえ課題を遂行する。時間が足りなく昼休みまでやるはめになった。私は休み時間には仕事を持ち込みたくないんだよ!ぐわあああっ!腹立つ!
「あの、ごめんミョウジさん。僕のせいでなかなか課題が進まなくて」
「いやいいよ。金木くん事故のせいでまだ本調子じゃないんでしょ?仕方ないよ」
すまなさそうに謝ってくる金木に表面上はにこにことそう返す。表面上だけだ。内心はめっちゃ怒ってます。お前自分が悪いと思ってるなら手土産のひとつももってこいよ!駅前の人気でいつも人が並んでるケーキでも持ってこられたら私だって許したさ!気が利かないな。こいつ絶対に女の子にもてないわ。
「取り敢えずレポートできたところまででいいから見せて。私の書いた奴と金木くんのを複合して字数を稼ごう。たぶん、これでもまだ文字数足りてないと思うからあとはどっかの参考文献から引っ張ってきてなんとか埋めます」
「うんわかった」
「はい、じゃあこれが私の書いた分のレポートね。金木くんも私の分のレポート読んどいてくれ。あとおかしなところあったら遠慮なくいってください。訂正します。それから昼ごはん食べる時間がないから今ここで食べちゃっていい?あ、金木くんもまだならどうぞ」
「あ、僕は昼いらないんだ。ミョウジさんはどうぞ。それじゃあレポート読ませてもらうね」
「うん、了解」
互いのレポートを交換して内容を読む。パートナーの書いたものを把握しとかないと教授に突っ込まれた時に答えられないからね。それにしてもさすが文学少年、文体がめっちゃ丁寧です。私の3日クオリティーのレポート見せるのが恥ずかしいわ。あの手からレポート取り返したくなってきた。
それでレポートを読みながら片手で弁当を取り出すふたを開ける。手抜き感あふれる内容の弁当だが一人暮らしの女の弁当なんてこんなもんだ。女の子の弁当はピンクでかわいくて色に満ち溢れてるってのは幻想です。実際はおかずがたいがい茶色いです。取り敢えず色目をよくするためだけにいれたプチトマトを頬張る。スーパーで3割引きになってる商品だったから若干しなびてるな。まあ食えなくはない。
金木は昼飯食わないのか。文学少年だけでなく薄幸の美少年でも目指してるのか?ビジュアル的にできるか微妙だな。金木だとただの地味な少年で終わる可能性もある。
なんてかなり失礼なことを考えながら食事をとってると金木がこちらをガン見してきてぎょっとする。え、君をディスってたのばれた?ちょっとこっち見ないでください。乙女の食事姿をガン見するとか失礼な奴だ。デリカシーがないぞ。自分のことは棚に上げる。私は口に出してないのでセーフです。
「何か用?金木くんどうした?レポートの内容なんかおかしかった?」
「それ、」
「これ?私の弁当がどうした?」
「おいしそうな匂いがする」
そういって金木は呆然と私の弁当を見つめた。は?私の弁当がおいしそう?褒め言葉ですね、ありがとうございます。
それにしても私のこの手抜きの弁当(内容は何の味もつけてないただの卵焼き、スーパーで特売品になってた賞味期限ぎりぎりの鮭、ちくわにきゅうりを詰めただけのお手軽おかず、あと昨日の残り)をおいしそうだと思うなんてこいつはどれだけ貧相な食生活を送ってるんだ。なんかちょっとかわいそうになってきた。今も缶コーヒー飲むだけだしひょっとして苦学生ですか?いや私も生活にゆとりがあるわけではないのだけれどたぶん彼よりは苦労してないよ。あれ?目頭が熱くなってきたな。私はホームレス中学生とかに胸を抉られるタイプの人間です。
「よかったら食べる?」
「いや、でも」
「いいよ別に少しくらい。はいどうぞ」
そういって金木くんにハシを渡す。いいんだ気にしないでくれ。こんな貧弱な弁当がおいしそうなんてよほどろくなものを食べてないのだろう。遠慮なくいってくれ。でも全部は食べないでね。
金木くんは戸惑っていたがハシを受け取ると恐る恐る卵焼きを口にいれた。そして目を見開いた。
「あ、味がある」
「おいそれどういう意味だよ。褒め言葉ではないじゃねえか」
「味がある。ちゃんとおいしいよ」
そういってボロボロと涙を流し始めた金木をみて今度は私がは?と目を見開く。
え、あ、そんなにおいしかったの?ありがとうございます。私人を感動されられるほど料理の才能があったのか。将来は料理の道に進むのもいいかもしれないですね。
ハシを握ったまま泣きじゃくる金木をみて私は困惑する。どうしたんだろこいつ。そんなにまともなもの食べてなかったのだろうか。どんな生活を送ってたら朝10分クッキングで作ったこの弁当にこれだけ感動できるんだ?
取り敢えず弁当は金木にすべてあげることにした。ここまで喜んでもらえたなら弁当も本望だよ。というわけで私は空腹で鳴るお腹を抱えながら午後の授業を受けるはめになった。せめて金木のもってた缶コーヒーくらいはぶんどっておけばよかったです。
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