ブック(ネタ)

□愛は世界を救わない
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神様というのは残酷だ。


何やら手違いという奴で私の人生は儚く散らされた。信号無視で突っ込んできたトラックにぶつかってドカンだよ。きっとスプラッタな死体になっているだろう。それを見る前に死ねたのはラッキーなのかそうではないのか。いや、ラッキーではないよね。だって死んだんだもん、不幸せに決まってる。ちくしょう。

本来死ぬべきだったのは間違えてコンクリートの割れ目から出てきたミミズだったらしい。ミミズの代わりに死ぬとかやりきれん。ミミズの命が尊くないとはいわんがそのためにまだ若々しく青春真っ盛りの私が死ぬとか許せんだろ?しかもそのミミズはそのあと通りすがりのスズメに食べられたんだって。もうやってらんねえ

さすがにこの顛末には神様とやらも申し訳なく思っているらしくお詫びに他の世界にトリップされてくれるらしい。しかも何らかのチート能力つきで。

これはテンション上がった。いやっほー!だってトリップだぜ?しかもチート能力つきのトリップだぜ?これは楽しすぎる。どう考えても人生イージーモードですよ!

数ある夢小説のヒロインに私もなれるのだ!ただしつけれるチート能力は1つだけらしい。ならもう迷うことはない!トリップするならこの能力しかない!

ズバリつける能力は逆ハー補正だ。逆ハー補正とはその世界にいる男たちを自分の虜にしてしまうモテモテになれるスキルのことだ。何もしなくともイケメン達が私のことを好きになるという乙女ゲーのような展開が私に訪れるということなのだ。うひっ

これは素晴らしい!だって何にもしなくてもイケメンにちやほやしてもらえるんだぜ?やめて!私のために争わないで!を素でやれるんだぜ?楽しみすぎる。もう神様のこと許してやるよ。あざーす!

そんなわけで私が神様からもらった能力は魅了の眼だった。かっこよく言うならファスシネィトアイだ。ただ英語読みしただけです。

なんでも私が相手の目を見る度に相手は私のことを少しずつ好きになるらしい。乙女ゲーで言うところのラブゲージみたいな奴だな。目を見るたび好感度が上がっていくのだ。

ぐひひ。なんて素晴らしい力をもらったのだろう!さて、せっかく手に入れた力なんだから勿論悪用させてもらう!イケメン侍らして男にちやほやしてもらいながらお姫様みたいな人生送ってやるぜ!じゃあ行くぜ第2の人生!レッツゴー!!


と思ったら、と思ったら!



「なんでよりによって進撃の世界なんだよ」



不味い豆のスープを前にして私はぼそりと呟く。食事も寝床も最悪で前の世界と比べると底辺レベルの生活水準だ。なんでこんな世界に来てしまったのだろう。神様は残酷だ。


魅了の眼を得てやって来た異世界なのだがよりによってたどり着いたのは『進撃の巨人』の世界だった。

この世界は巨人と呼ばれる人を殺す巨大生物が闊歩している世界だ。人類は壁を築き上げ巨人から身を守っていたのだがそれも数年前一番外の壁であるウォール・マリアが破られ人類は追い詰められていった。

つまりこの世界は生きるか死ぬかのデスゲームな世界なのだ。こ、こんなはずではッ、

せっかくの魅了の眼が全くもって嬉しくない。いや、だってきゃははうふふって逆ハーレム作っても巨人に壁破られればプチッと潰されて終了なんだよ?終わった。なんで私は逆ハー補正じゃなくて戦闘能力を希望しなかったんだろ?いやだってまさか進撃の世界だとは思わなかったんだもん。どこかのイケメンが闊歩するスポーツマンガの世界とかに行けると思ってたんだもん。バトルロワイヤルみたいな世界とか聞いてないよ!ワンモアプリーズ!今から能力チェンジでお願いします!


そんなわけで今の私は魅了の眼が発動しないように前髪を伸ばしビン底メガメをかけ俯きながら暮らしている。自分でもダサいとは思うが下手に魅了の眼を発動させるわけにもいかないから仕方ない。え、なんで魅了の眼使えないのかって?そりゃここは進撃の世界だぞ?ちょっと考えればわかるだろ?もし私が魅了の眼を使ってしまったら、



「おいナマエ。なんでそんな辛気くさい顔してんだよ。ていうかいい加減前髪切れよ。じゃねぇと立体機動の訓練で事故るぞ?」


「うるせぇエレン。ほっとけ!私にはこうしなければならない理由があるんだよ!くっ、この呪われし両目を開眼するわけにはいかないッ!」


「何わけわからないこと言ってんだ?頭おかしいんじゃねぇの?大丈夫か?」



1人でモソモソ食事をとっていたらエレンが失礼なこといいながら話かけてきた。エレンの私を見る目は完全に残念な子を見るそれになっている。こ、この野郎!確かに自分でもブサイクな格好をしていると思ってるが誰の為だと思っている!もういっそ魅了の眼を解放してエレンを私の虜にしてやろうか!くくくっ、愛の奴隷にしてやるぜ!

そんな邪悪な考えが一瞬頭をよぎるが慌てて首を横に振りその考えを振り払う。いかんいかん、ここでそんなことしたら死亡フラグが成立してしまうかもしれない!ダメだ、逆ハーレムは魅力的だがそんなのは全て命あっての物種だ。だからエレンを魅了なんてしてはいけない!


だってエレンを魅了して『俺駆逐やめてナマエを幸せにするわ』とかになったら困るもん!エレンが駆逐厨じゃなかったら誰がこの世界を救うんだよ。3年後の壁破壊でジ・エンドになるじゃないですかヤダー。

つまり私が危惧しているのは下手に誰か魅了して原作を壊してしまうことだ。特にエレンみたいな主要キャラ魅了すると本気で詰むから絶対にエレンに目を見せれない。なんてめんどくさい!せっかくのチート能力が役に立つどころか邪魔になってやがる!



「まあまあ、そういうなってエレン」


「なんだよライナー。だって前見えないとあぶねぇじゃねえか」


「だが女の外見にとやかく言うべきじゃねぇぜ?なんか事情があるかもしれないだろ?」



そういってお節介なエレンを止めてくれたのはライナーだった。ライナーはやんわりと諌めるようにエレンの肩に手を置いた。さすがライナー、頼りになるな。兄貴って呼ばせてください!

ありがとう、とお礼をいいながら私はスッとライナーから視線を逸らす。いや、だってライナーも主要キャラの1人なんだもん。魅了してはいけない人間のトップ5には間違いなく入る人間なんだもん。

知ってるか?こんなにかっこよくて頼りになって男前なライナーが実は鎧の巨人なんだぜ?ラスボス候補の1人なんだぜ?人類の敵なんだよ。てかこの104期上位の人間がミカサを除いてみんな巨人なんだよな。キャラ濃すぎだろ

そう、ライナーは巨人で人類の敵なんだ。だから下手に魅了するわけにはいかない。

そりゃ魅了して『俺巨人やめるわ』とかなったならいいけど『好きだ!嫁になれ!』みたいな故郷にお持ち帰りコースだとたまらん。ライナーの故郷って巨人まみれなんだろ?そんなところ行きたくないです。

ライナーは私が視線を逸らしたのを見てふーと息を吐くとポンポンと私の頭に手を置いた。



「お前ももうちょっと歩み寄れよ?じゃねぇとせっかく同期の仲間なのに寂しいじゃねぇか」



そういってライナーはニカッと笑う。あの、ちょっと私に触らないでいただけますか?そんなことされると無性にライナーの胸筋に飛び付きたくなるんですけど?

ライナーかっけぇぇぇぇぇーー!!素敵!イケメン!もう抱いてぇぇぇー!!

あの厚い胸板に頭擦り付けたい!いや落ち着け私!そんなことしたら故郷帰還エンドが待ってるぞ?それは嫌だろ?巨人の国には行きたくないです。

なんとかにやける口元を引き締めまあ努力するよ、とだけ答える。エレンが仏頂面な奴だなとか言ってきやがるがお前私のスマイル見たらキューピッドに心臓を矢で貫かれることになるんだぞ?心臓は人類に捧げたいんだろ?なら余計なことを言わないことだ


あー!くそっ!別に進撃のキャラ達のことは嫌いじゃないんだよ!むしろ結構イケメン揃ってるし皆兵士だから筋肉ムキムキで眼福だし実はタイプなんだよ!こいつらで逆ハーレム作れたら出血多量で死ねる自信さえある。だがしかし!

ここは巨人と人間の戦場なのだ。ちょっとしたささいな出来事で直ぐに人類が滅びてしまう可能性がある。今は逆ハーレムとか作ってる場合じゃないのだ。奴らには人類のために心臓を捧げといてもらわないといけないのだ。

本当になんで進撃の世界なんかに来てしまったのだろう。なんでチート能力に逆ハー補正なんか望んでしまったのだろう。ホント散々だ。

104期卒業とともに来るであろう超大型巨人の進撃を思い浮かべながらため息をつく。

ああ、なんとも世知辛い世の中だ。



〜愛は世界を救わない〜



(取り敢えずベルトルトの脛を蹴ってやった)



ーendー

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