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□おかしな僕ら
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刹那に執着する変わった人物は外部にもいる。それも結構お偉いさんだったりする。
「逢いたかったぞ!!少年!!!」
金髪の白人の男はそう叫ぶとがずんずんと刹那に迫る。思考に耽っていた刹那は突然の男の登場に驚く。周にいたスタッフも彼の大声に驚いたのか、そそくさといなくなってしまった。急に静まり返るフロア。
噂をすれば影、とは本当らしい、と刹那は思った。
「君に逢えるのをどんなに待ち望んでいたか!」
「…グラハム・エーカー」
刹那はグラハムのあまりの迫力に思わず後退する。
ユニオンの高級軍人である彼はある程度自由な行動が許されるため、こうしてCBに暇を見つけてはやって来ていた。刹那に逢うためだけに。
グラハムは刹那の肩を両手でぐわしとひっ掴んだ。
「私は我慢弱いのだ。さぁ少年!そろそろ答えを聞かせて貰おうか」
「俺に触れるな!!」
「つれないぞ少年。まだ私の気持ちが解らないと言うのなら実力行使をす…」
「何をしているんです」
「ニール!」
ニールは刹那を掴むグラハムの腕を掴んだ。グラハムはジロリ、とニールを見る。また君か!と叫ぶとニールの手を払いのけた。
「何ってナニをするに決まっているではないか!私は少年を求めてやまないのだ!!君にはこの私の気持など分かるまい!!!」
「ナニって…っ!っていうかやっぱり刹那をそんな目で見てんだな、この変態ハム野郎!!」
「そういう君こそ少年に不純な思いを抱いているのではないか?だいたい君は少年の何なのだ!」
「俺は刹那の……!」
ニールは一瞬言葉に詰まった。
「…仲間以上、恋人未満だ……」
言っていて落ち込んだらしく、だんだん声が小さくなってしまう。グラハムは勝ち誇った顔をする。刹那はニールの爆弾発言に「はぁ!!?」と言ったが目の前の二人には聞こえなかったようで無視された。
――俺はあの兄弟からもそんな目で見られていたのか……
全てを悟った刹那はどんよりと落ち込んだ。何が悲しくて男にモテなくてはならないのだ。なんかもう、泣きたくなってきた。
「恋人ですらないのにこの私の恋路を邪魔立てしようとは笑止!!失礼する!!!」
「なっ何をする!?俺に触れるなぁ!!はーなーせーー!!!!!!!!」
ニールの隙をついてグラハムは刹那を担ぎあげ、走って逃げようとした。刹那は必死にジタバタしてグラハムを殴ったり蹴ったりするが彼は全く動じない。それどころか刹那に殴られてどこか嬉しそうである。彼の恍惚を浮かべた表情が雄弁に物を語っていた。
――えぇえぇ…こいつMか?ドMなのか…?頬を染めながら走るグラハムに刹那はさらにげんなりとした。全身から力が抜けていく。
「あっ!コラ!!ハム野郎!待ちやがれぇぇえぇぇ!!!!!!!!!」
ニールは必死に走って追いかける。向こうは人ひとり抱えているからすぐに追いつけるかと思っていたが、あと一歩というところでなかなか追いつくことができない。
「フハハハハ!恐れ入ったか、これがフラッグファイターの底力だ!!!」
「……くそっ!」
「助けろ!ニール!!」
全身に鳥肌を立てて叫ぶ刹那。そういう意味で好きでもない相手に助けを求めるなんて、さらに勘違いさせてしまうかもしれないが、こんな変態に攫われるよりはマシだ……きっと…。
「――っ、分かってる!……あ!ライル!!!」
「兄さん?…って刹那と…誰だ!?」
ちょうどその時、ライルがグラハムの少し先にひょっこりと現れた。ライルは刹那を抱えあげて走る不審人物を見て明らかに動揺していた。グラハムが涎を垂らさんばかりの顔をしていたのでそれも仕方がないのだが。ニールは叫ぶ。
「ライル!そいつは刹那を攫うつもりだ!!とっ捕まえろ!!!!!!」
「マジかよ!??」
ライルは兄の声にハッとしてグラハムに向き直る。
「観念しろ、この変態金髪野郎!!」
ライルはグラハムに狙いを定め、勢いをつけて体当たりをかました。さすがのグラハムも完全には避けきれずにバランスを崩し、後ろ向きに倒れていく。刹那は宙に放り出されたがすぐ後ろに迫っていたニールがキャッチした。
「良かった、刹那…」
「悪いな、ニール」
ニールはぎゅうと刹那を抱きしめ、猫にするように頬ずりをした。刹那は特に抵抗はしない。なんかもう、疲れた。早く部屋に帰って寝たい…。
ライルは倒れたグラハムを床に押さえつけていた。グラハムはギャーギャー言って暴れる。
「貴様っ!少年にナニをする!!!」
「変態は黙ってろ」
「いだっ!?」
ボクッとライルに殴られるグラハム。ニールはグラハムを完全無視して刹那にベッタリと張り付く。刹那は石のように固まっている。
「少年は私と運命の赤い糸で結ばれているのだ!だから…」
「黙れって」
「ふぐぉっ…!」
再びライルに容赦なく殴られ、グラハムは白目をむいてやっと大人しくなった。ライルははぁ、と溜め息をついて刹那にベタベタしている兄に目をやった。刹那は相変わらず無表情で棒のように突っ立っている。