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□バニラ。
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♪〜♪〜♪〜
「長太郎から…電話?」
長太郎専用の呼び出し音が鳴っている。
俺は気だるい身体を起こして鞄に入れっぱなしにしてあった携帯を急いで取り出した。
普通ならこの時間は部活中の筈だけど…。
何かあったのかと小首を傾げる。
「もしもし…?」
『宍戸さんっ!あの、これから会えませんか?』
「え?」
『実は、放課後の部活が急遽休みになったんですっ。だから俺、宍戸さんに会いたくて』
長太郎からの思いがけない電話に自然と顔が綻ぶ。
「…そっか、俺は別にかまわねぇよ。ちょうど暇してたしな」
暇してた、…か。
確かにその通りなんだけど。
流石に長太郎が恋しくて独りでシてた…なんて言えるわけもなく、少し後ろめたさを感じる。
『良かった!それじゃ今から宍戸さん家に行きますねっ』
「あ!?…お、俺ん家っ!?」
『?…そうですけど、ダメですか?』
「あっ、いや、ダメってわけじゃねーけど…」
ちょ、ちょっと待て…。
この部屋はマズイだろっ。
まだ生々しく残っている目の前の痕跡を見て、じわりと嫌な汗をかく。
『宍戸さん?…どうかしました?』
「あー…やっぱさ、どっか外に出かけねぇか?今部屋ん中スッゲー散らかっててよ…」
『俺、そんなの全然気にしませんから!それに…もうすぐ宍戸さん家に着いちゃいますよ』
「っ、…ま、まじかよ!?」
『はい、なので宍戸さんは家で待っててくださいね!』
完全に長太郎ペースで話は進み、俺は上手く言い逃れる事も出来ないまま電話を切ることとなった。
相変わらずな長太郎の行動に内心やれやれと思いながら苦笑する。
けれど、なんだかんだ言っても俺はそんな長太郎が好きで…会えるのは正直嬉しい。
「…っと、やべぇ、早く片付けねーと」
長太郎が来るまであまり時間に余裕がなさそうだ。
俺は焦りながら部屋の窓を開け、新鮮な空気を中に取り込む。
そして直ぐ目につくであろうティッシュの残骸が入った小さなゴミ箱を抱え、汚してしまったシーツもどうにかしなければと、ぐるぐる頭を混乱させていたその時―。
『ピンポーン』と家のチャイムが鳴り響いた。
「げっ!!長太郎!?」
思いのほか早すぎる長太郎の到着に俺の頭の中はますますパニック状態に陥る。
抱えたままのゴミ箱をとっさにベッドの下に押し込んで、シーツの汚れは上から掛け布団を被せて隠す。
「あ、あとは…大丈夫…だよな」
『ピンポーン』と再びチャイムの音が聞こえた。
これ以上長太郎を待たせて怪しまれても困る。
俺はもう一度部屋を見回してから慌てて玄関に向かった。
「よ、よお。早かったな」
「えへへ、宍戸さんに会えると思ったら嬉しくて。電話切ったあとダッシュして来ました!」
なっ、…そ、そんなダッシュして来なくても俺は逃げも隠れもしねぇっつーの、…ったく。
思わずそう言ってやりたかったが、俺に会いたいという長太郎の気持ちの表れだと思うとそんな悪態もつけず、ここは堪えて言葉を飲み込む。
「あれ?宍戸さん、まだ帰って来たばかりでした?」
「え?あ、…そうでもねーけど」
「あ〜また着替えないでゴロゴロしてたんじゃないですか?」
「っ…。ま、まあな…」
着替えようと思っていたのに例のごとくことに及んでしまった俺は結局今も制服姿のままだった…。
何となく長太郎を直視出来ず、視線をさ迷わせてしまう。
「あの…、宍戸さん」
「な、なんだよ?」
「………前…開いてます…」
「っっ!!!!」
全身の毛穴から汗がドバッと噴き出し、顔から火が出そうになる。
部屋を片付ける事ばかりに気を取られていた俺は制服の乱れにも全く気付いていなかったのだった。
end.
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