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□Happy Birthday。
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「宍戸さん、着替え終わったら教えてください。俺、後ろ向いてるんで」
「…分かった」
長太郎の部屋で、長太郎から渡された服を受け取り俺は小さく頷いた。
長太郎はにっこり微笑むと俺から離れ背を向ける。
その後ろ姿を確認してから、俺は自分の手に握られた服に視線を落とした。
(これって…メイド服ってやつじゃ…)
前にテレビなんかでチラッと見たことがあった。黒地に白いフリフリのエプロン…。
おまけにスカートは超ミニで、後ろには黒くて長い尻尾まで付いている。
(はぁ…マジかよ…)
俺は長太郎に気付かれないようにため息をつくと、意を決して着替え始めた。
それにしても男の俺にこんな格好をさせようとする長太郎の趣味を疑ってしまう…。
本当は俺なんかじゃなくて、こういう格好の似合う女に興味があるんじゃないのか…?
つい余計なことまで考えて更に落ち込む。
「宍戸さん?…どうですか?」
急に長太郎に声をかけられ、ハッとする。
「ちょ…長太郎…」
「着替え終わりました?」
「あ…、お、おう」
「じゃあ見てもいいですよね」
「……」
俺は自分の格好を改めて見下ろし、恥ずかしくて顔から火の出る思いがした。
振り返る長太郎を直視出来るはずもなく俺はただ俯くしかなかった。
「し、宍戸さん!可愛いですっ」
「/////」
「こっち見てください」
「……」
渋々顔を上げると長太郎は俺のことを頭のてっぺんから足の先まで一通り眺め、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「スゴく似合ってます!」
「っ…///言っとくけど…今日だけだからな…お、おまえの…誕生日だから…」
「クスッ、分かってます。…そんな恥ずかしがらないで、宍戸さん」
「……」
恥ずかしがるなと言われても、こんな格好…ヤバいだろ。でも今日だけは長太郎のために仕方なく…だ。
「あ、宍戸さん、猫耳もちゃんと付けてくださいね!」
「なっ…」
長太郎に黒い猫耳のカチューシャまで付けられ俺は軽く目眩を起こす。
目の前の長太郎は全く悪気のない様子でこの状況を楽しんでいるようだった。
「…ねえ、宍戸さん。俺のこと、ご主人様って呼んでみてください」
「ばっ、ばか!…んな恥ずかしいこと言えるかよっ」
「だって今日は俺の我が儘、聞いてくれるんでしょ?」
「っ…そ、そう…だけど…」
数日前に、長太郎の誕生日プレゼントが思い浮かばなかった俺は『おまえの我が儘聞いてやる』…なんて、うっかり口を滑らせてしまったのだった。それに思いっきり食い付いてきた長太郎。
こんなことなら、適当にプレゼント買ってやった方が遥かにマシだった。今更後悔しても遅いけれど…。
「じゃあ、呼んでみてください」
俺は何も言い返せずに長太郎の言いなりになるしかなかった。
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