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□蕾。
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「宍戸さん大好きです〜」

「なっ…おまえ、それやめろって」

「えー、いいじゃないですかっ」

「よくねぇ、周りにヘンに誤解されるだろ!?」

ダブルスパートナーである長太郎は俺に対して『好き』という言葉をよく口にする。

周りに誰がいようと所構わずだ。

挙げ句の果てには、どさくさに紛れて抱きついてきたりする時もある。

そのたびに俺がどんだけ神経すり減らしているのか、コイツは分かっているのだろうか…。

「え、誤解って…?」

俺の言っている意味が分かっていないのか、長太郎はきょとんとした顔で首を傾げている。

天然なのか単に鈍いだけなのか。

俺にとっては後輩がなついてくれるのはとても嬉しい事なのだけれど、素直に喜べない複雑な思いがあった。

とにかく長太郎の言う『好き』は俺が考えているような『好き』とは意味合いが違う、と思う。

「普通、男にはそういうこと言わねーだろ」

「…そうですけど。でも俺、宍戸さんにしか言ってませんよ」

「だから俺は男だっつーの!」

長太郎と話が噛み合わず、だんだん頭が痛くなってくる。

ていうか、何で俺がこんな話しなくちゃならねぇんだ。

長太郎の事が『好き』な、この俺が―…。

胸がチクリと痛む。


「好きな人に『好き』って言ったらダメですか?」

長太郎は眉尻を下げてしょんぼりした顔をしながら俺をじっと見つめる。

「おまえのそれは―…、」

どういう意味の『好き』なんだ?

俺と同じなのか、それとも違うのか…、長太郎に聞くのが怖くて何も言えなくなった。

「それじゃ…、もっと分かりやすい言葉で言います」

「え…?」

急に真剣な表情になった長太郎が、いきなり俺に抱きついてくる。

「長太郎っ…それもやめろって…」

「喋らないで、聞いてください」

耳元に唇が寄せられ、長太郎から告げられた言葉に俺は動けなくなった。



『宍戸さん、愛してます』



涙がじわりと溢れる―。


本当に鈍いのは長太郎じゃなくて、もしかして俺の方だったのかもしれない…。



end.

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