Jのお題

□烙印
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空気清浄器の音だけが聞こえる
ホテルの一室


独特の乾いた匂いのその部屋に
赤屍は足を踏み入れた


部屋のほとんどを埋める
ベッドの上に仕事用の携帯と
帽子を放り投げる


脱ぎ捨てた
血に濡れたコ−トの上に
上着やネクタイ
そしてワイシャツにズボンと
積み上げられるたびに
生臭い血の匂いが部屋中に
どんどん広がっていく


それらを無造作に
ランドリーの袋に押し込むと
赤屍はドアの外に置いた


裏の人間達が愛用する
ここのホテルには
血まみれの服くらいで
騒ぐような輩はいない


明日の朝には
普通にクリ−ニングされて
届けられることだろう


「今日もつまらない
仕事でした…」


ため息がちにバスル−ムで
蛇口を捻れば
少し低めに設定した湯が
赤屍の白い身体を濡らしていく



頭上から降り注ぐ湯が
顔をつたい流れ口元に入った時
鉄臭い味がした


この血があの男のモノならば
どんなにか甘く美味だったろう


吸い込まれるような
青の瞳を思い浮かべ
赤屍は口元を上げた


しかし残念ながら
今回は違う


赤屍は湯を口に含み
不愉快そうに吐き出すと
ふと左腕の刺青に目をやり
ゆっくりとそれを撫でた










「これは…?」


左の上腕部に刻まれた
刺青に赤屍は眉を寄せた



「悪いが超越者としての
目印をつけさせてもらった」



「目印…?
どういうことですか
ドクトル」


「と いうよりは【鑑札】…かな
君がどこで何をしているか
我々にもすぐにわかるように
登録させてもらったよ」


愛らしい幼い少女そのものの
笑顔で博士【ドクトル】は
ウサギのぬいぐるみを
抱きしめ笑うと赤屍を見上げた


「不愉快かね?
赤屍蔵人…
君も我々から見れば
バグの一つに過ぎない
嫌なら自ら命を絶ち
存在を消してしまっても
構わないが?」


「貴女を殺しこの刺青を
削りとるかもしれませんよ?」


殺気を込めた澱んだ眼差しを
向ける赤屍に博士は
またくすくすと笑った


しばらく博士を
睨みつけていた赤屍は
やがて視線を落とし呟いた


「私には…自分の死を
イメ−ジすることが
できないのですよ」


「そうか…なら今しばらく
そのままでいてもらおうか
我々としても君の存在は
実に興味深い…
刺青という形は
不都合かもしれないが
君はもう医者ではないのだから
構わないだろう?」


「別に気にはしません
けれど私は医者です
これからも…ずっと…ね」



「なるほど…それが君の贖罪か
まあ いい…
その刺青が烙印になるか
証(あかし)になるかは
それは君次第だ
赤屍蔵人」


どこまでも愛らしく
そして残酷な笑顔で
少女は赤屍に微笑み告げた
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