Jのお題

□体温
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「ご苦労だったな
報酬は小切手になるが
構わないかな」


「ええ…どうぞ
それで構いませんよ」


依頼人の男は
周りを警戒しながら
小さな箱を
ポケットにしまいこんだ


パ−ティ−は
宴もたけなわで
音楽に混じり
拍手と歓声が広がっていた



「随分とにぎやかですね
結婚披露宴ですか」



「ああ 息子のな…
身内だけでの集まりだ」



寄り添う新郎新婦を見ながら
男はふっと微笑んだ


そんな二人に
新郎新婦といた
男の妻が声をかけてきた



「あなた…そろそろ写真を…
あら…そちらの方は…?」



「いや…彼は…」


慌てる男の前で赤屍は
帽子を脱ぎ頭を下げた


「はじめまして
私は 運び屋の
赤屍蔵人と申します
本日はおめでとうございます
今回はご主人に頼まれた品を
お持ちしました」



「運び屋?」


怪訝な顔をした妻は
近づいて赤屍の顔を見ると
あらっと
頬を赤く染めた


男はそんな妻の様子を見て
ゴホンっと咳をする


「内緒にするつもりだったが
ばれてしまっては
仕方がないな」


さっきの箱を取りだし
男は妻の前に差し出した


「こんな時になんだが
結婚記念おめでとう」


「まあ あなたったら…!
まだ一週間も先なのに…」


嬉しそうに受け取り
箱を開ける妻を赤屍は
醒めた眼差しで見つめていた



「まあ素敵なダイヤの指輪!
こんな綺麗な方に
素晴らしいダイヤを運んで
貰えて嬉しいわ」


「お気に召されて何よりです」


実は密輸ダイヤなんですがね
と赤屍は心の中で呟いて
クスッと笑った


赤屍の顔を見ながら
頬を染め笑顔を向ける妻に
男は少し面白くなさそうな
顔をしている



「先に戻っていなさい
私は彼に仕事の話しがある」


名残惜しげに赤屍を
見つめながら
去っていく妻に男は
苦笑していた


「あの妻の顔を見たか?
ダイヤより君に興味が
有りそうだったな」



「貴方はどうなんです?」


ギョッとした顔で男は
赤屍を見た


「どっどうとは?」


「私に興味がありますか?」




端正な白い顔に
淫靡な笑みを浮かべる
赤屍に男は身体を強張らせた


確かに美しい男だ


今まで自分が見てきた
どの女よりも美しい


細められた蒼紫の瞳に
ゆらりと揺れる
欲望の光に
男はごくりと喉を鳴らした



「おや…雨ですね」


はっと男が顔を上げると
いつのまにか空は
重い雲を垂らし
ポツポツと雨を降らせていた



新郎新婦も招待客も皆
慌てて屋敷の中へ
戻って行く



「困りましたねえ
馬車のいない時に限って」


勢いを増す雨を見上げ
薄い唇から白い息を吐き
呟く赤屍に
男は声をかけた



「少し…休んでいきたまえ
雨が上がるまで…」


「よろしいのですか?
私のような者が居ても」



「構わないとも
その…報酬も渡さないと
いけないしな…」



「では御言葉に甘えて…
ありがとうございます」



内ポケットにある
小切手をそのまま出す事もせず
目を反らし話す男に
赤屍は帽子の縁を上げると
クスッと笑った
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