Jのお題

□プラスチックソウル
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ドーンという地響きに
卑弥呼はハッと
顔を上げた 。



パリパリと音をたて
四方八方に
赤い火花が飛び散る



蒸し暑い夜空に
赤や緑の色とりどりの
華が咲く


「綺麗ね…」



「そうですね
それに都合がいい…
おかげで 雑魚の
下卑た悲鳴も
聞こえなくてすむ」



花火を背に立つ
黒い姿を卑弥呼は
睨み上げる


花火が上がる度に
浮かび上がる
白い顔の口元は
冷たく笑っていた






助けを請う暇さえ
与えられず
コマギレになった敵の
肉片を踏まないよう
注意しながら
卑弥呼は声を上げた


「こんな雑魚に
なに気合い
入れてんのよ!」


「おや?
どうなさいました?
レディーポイズンとも
あろう方が雑魚に
慈悲ですか?」


「別に…
そんなんじゃないわよ」


クスッと笑う赤屍を
一睨みして卑弥呼は
夜空に広がる
色とりどりの花火の
ほうに顔を向けた


「……人の命もこの
花火とおんなじね…
どんなに綺麗で
輝いていても
一瞬で消えてしまうわ」


タバコをくわえた
兄の笑顔を思い浮かべ
卑弥呼はそっと
ポーチの香水の瓶に
触れた



「確かに儚いものです
人の命とは…
築き上げるのに
時をかけ心を砕いても
消える時は
一瞬ですからね…」



「ジャッカル…?」


いつもより
声が沈んでいる気がして
卑弥呼は顔を上げ
赤屍を見つめた


花火に照らされ
浮かぶ白い顔は
半分は帽子で隠され
表情を伺う事は
できない



「あんたでも
そんな感傷に浸る事が
あるのね …
悲しい?」


卑弥呼の言葉に
赤屍は肩を震わせ
ククッと笑った


「まさか…
益々嫌悪を感じますね
弱い人間に…
愚かな人間にね…」


蒸し暑いはずの空気が
一瞬冷たく凍った
気がした



自分の首筋を撫で
まだ 繋がっている事に
卑弥呼は安堵した


それほど
赤屍の放つ殺気は
冷たく
恐ろしいものだった


「さあ… 花火の鑑賞は
これくらいにして
戻りましょうか…
クライアントが
お待ちです」




血だまりを平気で
踏みつけながら歩く
赤屍の後ろ姿を卑弥呼は
黙って見つめていた


そういえば
火薬の匂いに
気づいた時から
妙に不機嫌だった


闇の中歩く後ろ姿に
一瞬白衣の赤屍の姿が
重なり卑弥呼は
目を疑った


瞬きをして目をこすり
その黒き死神の姿を
確認する


「ドクタージャッカル…
あんたは一体
なんなの…」


人形のような冷たい
美貌にはやはり
生身の心は
宿っては
いないのだろうか


死と孤独と絶望を背負い
去り行く姿を
卑弥呼は黙って
見つめていた




END
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