Jのお題

□血
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青白いほど白い手首に
メスを当て
赤屍は肘に向かって
まっすぐ下に
切り裂いた


ほとばしる熱い血と共に
襲い掛かるすさまじい
激痛を感じたのも
束の間で
血はすぐに止まり
傷もみるみるうちに
塞がっていく



何度繰り返しても
同じ事だ


指を切り離し
腕を落とそうとも
まるでフィルムの
逆再生の如く
戻される肉体が
そこにある



「相変わらず
呆れるくらいデタラメな
身体ですね」



足元に広がった
血だまりを見下ろし
赤屍はクスクスと
笑った



真っ赤な血が流れる己に
安堵している事が
馬鹿馬鹿しくて
余計に可笑しかった



「くだらない感傷だ…」


紅く輝く瞳を細め
赤屍はメスを体内に
しまった


あの頃も今も
自分の存在を
象徴するのは
血なのだ














「今日は
忙しかったんか?
ジャッカル」


道路情報を少し聞いた後
ラジオを消し馬車は
ぼそりと呟いた



「いえ今日はこれが
初めての仕事ですよ」


「そうか」


窓の外をぼんやり
見つめている赤屍に
馬車はちらりと視線を
流しすぐに前を向いた


クライアントからの
荷物を持った卑弥呼との
合流地点でトラックを
止め二人は車内で
待っていた


約束の時間までは
まだ余裕がある


「卑弥呼は少し早めに
着くやろ
そろそろ敵も
現れるかもしれん」


「敵…ね…
そう呼べるレベルだと
いいんですがね」



赤屍はクッと苦笑した


「ジャッカル」


馬車の呼びかけに
顔を向けた赤屍は
手元に投げられたものを
思わず受けとめ
眉を寄せた


「なんです?
これは?」



「缶コーヒーやき」



「そんなこと見れば
わかりますよ…
申し訳ありませんが
私は「缶コーヒーに
しては香りもええ」



赤屍の言葉を
遮るようにして
馬車は缶コ−ヒーを
開けぐびっと飲んだ



しばらく馬車と
缶コーヒーを
見つめていた赤屍は
あきらめたように
ため息を一つつき
プルトップを引き上げ
口を付けた


「安物くさい
味と香りですね 」



「それでも 血の香りは
消えようが」


馬車の言葉に
ちょっと驚いた顔をした
赤屍だったがやがて
缶コーヒーを手に
クスクスと笑いだした



「…だてに付き合いは
長いわけではないと
言う事ですか」


「腐れ縁やがの」


「確かに
そうですねえ」



何故か嬉しく感じた
自分が滑稽だった



「私も…
まだまだですね…」


「なんぞ?」


「いえ 別に…
割合いけますよ
このコーヒー」


「そうやろ」


「実は私は
紅茶派ですがね」


馬車のしかめっつらを
横目に赤屍は
クスクスと笑いつつ
コーヒーを一気に
飲み干した




END
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