Jのセカイ

□しりとり
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「高速も一般道も
通行止めじゃ
どないにもならんぜよ」


叩きつけるような雨の中
コンビニの駐車場に停めた
トラックの中で
馬車は固定された
携帯に声を上げた



「話しが違うじゃないか
運び屋…
約束の時間に
間に合わないというなら
報酬は三割減らすことに
させてもらう」



「台風のリスクは
最初に言ったはずぜよ
こっちも道とはいえん道を
通って来たき
川同然の道も走ってな…
そもそも相場の倍を
払うから台風でも
運んでくれと
無理をしかけたのは
そっちじゃ」


いきなり相場の倍を払うなど
胡散臭いとは思った


依頼人は
一流ブランドで頭の先から
足の先まで固めた
組織を譲って
もらったばかりの
はしゃぎようが
わかるほどの若い男だ


最初から無理に仕事をさせ
値切るつもりだったのだろう


しかし赤屍も同行する仕事で
値切る阿呆はおらんかと
思ったのだが


「阿呆やったき…」


「なんだって?」


「いや…なんでもないぜよ」


「どんなものでも
どんなところにでも
運ぶのが
お前達運び屋の
仕事だろう
背おってでも
運ぶんだな」


「…」


ため息をつき黙る馬車に
依頼人は
はははと笑いながら
話し続けた


「この台風の中
ミスタ−ノ−ブレ−キと
ドクタ−ジャッカルが
足もなく
美術品をどう無事に
運んでくれるか
楽しみだよ…
た・の・し・み…!」


耳障りな笑い声を上げる
依頼人に馬車がむっとなり
言い返そうとした時
黙って腕を組み座っていた
赤屍がゆっくりと
話しかけた



「『皆殺し』」



甘いテノ−ルが呟く
物騒な単語に
車内の空気が凍った


その空気が伝わったのか
携帯は息をのみ
沈黙を続けている


「『皆殺し』 ですよ
わかりましたか
馬車」



「……わかった…」



とりあえずコンビニからは
離れるかと
ブレ−キを解除し
馬車は滝のような雨の中
トラックを発進させた


「おい…!」
何かを言いかけた
依頼人の声が途切れ
大声でもめる声と
叫び声が聞こえ
何かが倒れる音がした




しばらくして
先ほどの依頼人とは違う
年配の男の声が
馬車に話しかけた


「ミスタ―ノ−ブレ−キ
ドクタ−ジャッカル
息子が失礼をした
報酬は最初に提示した金額に
200万上乗せしよう
無理をせず運んでくれ
荷物の無事を最優先に
お願いしたい」



「後継者には
恵まれんかったな
三代目…
お得意さんやったに
残念じゃ」


ぶつっと携帯の電源を
切って馬車は
ふんっと鼻で笑った



「馬車…
皆殺しと言ったではないですか
続けてください」


赤屍の顔をちらりと見て
馬車は呟いた



「死屍累々」



クスッと笑って
赤屍はメスを手の平から出した


「以心伝心」



クスクスと笑いながら
赤屍は楽しげにメスを
研ぎ出した






END





「【ん】 がついたから
お前の負けじゃ
赤屍」



「また ですか…」
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