大乱闘奮闘記

□不器用なあなた
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今日、大乱闘で、武器多彩な緑色の勇者にあと少しの所で敗れ、悔しさを誤魔化すように鍛練に耽っていた。


アイク「2499…っ、」


2500、と区切りの良い数で、素振りを繰り返していた相棒の神剣ラグネルを、堅いコンクリート製の床に傷つけないように、静かに置く。

そして、壁に埋め込まれている時計にチラリと目を向けると、もう既にその短針は11時を指していた。


―そろそろ、切り上げるか。


そう思い、一度ラグネルを自室に持ち帰り、迷惑かと思いつつ風呂に入る。

水音が既に寝付いている子供達を起こさないように、と気を遣いながら蛇口を捻れば、ジャーとお湯が流れ出した。

俺は熱すぎもなく温すぎもない、絶妙な温度のお湯で汗を流す。




―――――

30分くらい経ち風呂から上がると、喉が乾いたなと思い、牛乳でも貰おうか、とキッチンへと足を進めた。


キッチンからは、光が漏れていた。

もう誰も居ないだろう、と予測していた俺の考えは見事に外れ、中から甘い匂いと、数人の気配を感じる。


俺がキッチンに顔を覗かせると、そこにはドロドロに溶かしたチョコをハートやら星やらを象った、金属の型に流し込んでいる姫たちの姿があった。


「あら、アイクじゃない。まだ起きてたの?早く寝なきゃ駄目よ。」


いち早く俺の存在に気付いたらしいサムスが、俺の方を見てからかうように笑った。

その、小さい子供に言い聞かせるような口調にムッとして、


アイク「…そんなガキじゃない」


と呟き、小さく頬を膨らませた。

サムスは、そういう所がガキなのよ、と楽しそうに言って、俺の頭を撫でた。


「サムスちゃん、ちょっとこっち来てくれる?」


俺がサムスの手を振り払ったのと同じタイミングで、ピーチのサムスを呼ぶ声が聞こえた。

そして、あら、という小さな呟きが聞こえ、俺の方に微笑み、こう言った。


ピーチ「アイクくんまだ起きてたの?早く寝なきゃ駄目よ。」


この言葉にサムスが爆笑し、俺が呆れていると、ピーチが続けた。


ピーチ「なぁに、まさか、サムスちゃんと同じ事言ったかしら?」


あまりのピーチ姫の鋭さに、俺達はもう互いに顔を見合わせるしかなかった。


ピーチ「図星だったみたいね」


ふふ、と笑うピーチ姫は、単純に綺麗だと思った。


俺達が話していると、他のキッチンにいた人たちも出てきたらしく、その
メンバーが、女性陣だという事に気付いた。

ピチューやプリンなどの、ポケモンまでもが居るという事は、今日は女性にとっては特別な日なのだろうか。


アイク「…何してるんだ?」


考えるのは得意じゃないので、直接聞いてみた。
(この癖があるから、俺は『KY団長』などと呼ばれるのかもしれない。)


サムス「チョコを作っているのよ。」


俺の疑問に、サムスが答えた。

そして、


サムス「明日はバレンタインだからね」


と続けた。


アイク「…ばれんたいん…?」


俺は、聞き慣れない単語に、首を傾けた。


ピーチ「バレンタイン、知らないの?」


そんな俺の様子を見て、ピーチ姫が同じように首を傾ける。

知らん、と呟くと、あのね、とピーチ姫が説明しだした。

俺は素直に説明を受ける。




ピーチ姫の話をまとめると、バレンタインとは、女性が、自分の好きな人や、日頃お世話になっている人へ、感謝の気持ちと共にチョコを贈る日、だそうだ。


―好きな人…か。


俺の脳内は、一瞬にして、中性的な顔立ちの、背中に綺麗な純白の羽根を携えた人物で支配される。

暫くその人物の事を考え、ボーっとしていると、肩に軽い衝撃が走った。

少し驚いて顔を上げると、サムスがニヤニヤと俺を見ていた。

俺はサムスに肩を叩かれたらしいと知る。


サムス「…アイクも一緒に作る?あげたい人、居るんでしょ?」


誰に、とは言わない。


アイク「なぜ、俺が」


ピーチ「そうよ!アイクくんも作りましょう!」


ピーチ姫が俺の言葉を遮って発言し、はい決まりとばかりに、蒼いエプロンを押し付けてくる。

チラリと困惑の目でサムスを見れば、諦めろとばかりに笑っていた。


―しょうがない…。


俺は、押し付けられたエプロンを着て、既にチョコ作り作業に戻っている姫たちの元に歩き出す。


アイク「どうやって作るんだ?」


腕捲りをしながら問うとサムスが、


サムス「おっ、やる気満々じゃない」


と楽しそうに笑った。

俺は心の中でうるさいと罵りつつ、反論するのを諦め、姫たちの指示に従っていた。





チョコを溶かして型に流し込む、という作業は案外簡単で、すぐに終えた。


ピーチ「あとは冷やすだけね」


俺は頷き、自分の作ったチョコの形が崩れないよう、冷蔵庫にしまった。

女性陣は、チョコ作りに疲れたようで、冷蔵庫にチョコ
を入れると、すぐに小さな欠伸をしながら、自室に戻っていった。


今、キッチンに居るのは、俺とサムスだけだ。

サムスは、未だに酒を呑んでいる。


サムス「アイクは、何個、作ったの?」


アイク「…6つ」


俺は、チョコを6つ作った。

マルスの分と、リンクの分と、シークの分と、ロイの分と、ファルコの分と、フォックスの分だ。

日頃、世話になっているだろう。
この6人には。
(世話をかけられてる事もあるが。)

だが、1つ、足りない。
一番大事なのが、1つ、足りないのだ。


サムス「あらぁ?一個足りないんじゃないの?」


俺はサムスの言葉に、ギクリと固まる。


アイク「…なぜ、」


サムス「マルスにリンクにシークにロイにファルコにフォックス。…で、あってるわよね?…だとしたら、やっぱり足りないわ。」


何故、本当に何故。
何故、サムスは何でもわかるんだ。


アイク「…頭の中が読めるのか?」


そんな俺の、頭の悪い問いに、そんな訳ないでしょ、と笑いながら答え、そして、続ける。


サムス「で、どうするの?一番、大切な人の、作ってないんじゃないかしら?…私に、なんか言う事あるんじゃないの?」


そう言って、挑戦的に笑う。


―あぁ、本当に、サムスは全部わかってる。
―サムスには、頭が上がらない。


俺は、サムスの言葉に小さく微笑み、顔をあげた。


アイク「……頼みが、ある。」













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