拍手有難うございます☆




============

「おはようございます、神堂さん。」
「はよ、春。」

この二人が共に居る事が当たり前の光景になったのは何時からだったろう。
大切な親友と仄かに恋い焦がれた女の子。二人ともが俺にとってかけがえのない存在で、夏輝が過去を振り切って君に想いを伝えた時は純粋に二人の幸せを願った。
いや、君達が何時までも幸せであるようにという気持ちは今でも変わらないんだ。
ただ、今の君達を見ていると不安になる。


あの時の俺の願いは間違いだったのかと―――――









「………また帰って来なかったのか?」
「あ、はい。」

結婚してからは練習でもレコーディングでも同じ場所なら一緒に来ていた二人が最近別々に現れる。不思議に思って夏輝に聞いても曖昧な返事しかしなくてどうしたものかと思っていたら、暫くすると君からみるみるうちに笑顔が消えていった。
君は俺が問い詰めても「何でもないです」と言って無理に笑おうとする。
きっと君には分からないかもしれない。俺は君が無理して笑おうとすればするほど心配になるんだ。
どんな形であれ、君は俺にとって大切な存在なんだから。

「でもきっと用事があるんだと思います。この間も仕事が立て込んでるって……」
「仕事仲間の俺がこうやってここに遊びに来てるのに?」
「………………」
「……悪い…」
「いえ、神堂さんは何も悪い事なんて言ってないです。」

ほら、そうやってまた笑う。
君は俺の言葉で傷付いたはずだ。俺に怒ればいいのに何時も怒りの言葉を飲み込むのはきっともう癖なんだろう。
優し過ぎる故のその癖は君の思惑通り他人を護る事が出来ているんだろうけれど、時々どうしようもなく他人を傷付けてる。
君を大切に思うほど傷付いていく事にきっと君は気付かない。
いや、気付かないでくれ。俺が今どんな気持ちか知ったら、君が苦しむのが判るから。

「とにかく、夏輝が馬鹿がつく位君に夢中なのは今も昔も絶対変わってないから。……心配かもしれないけど、それだけは信じててやって?」
「………私、夏輝さんの気持ちを疑った事は一度もないですよ?彼が告白してくれたあの日から……これからも、ずっと。」

それまでの重苦しい空気を吹き飛ばそうと励ます様に口にした俺の言葉に見せた君の表情はとても凛としていて目が離せなくなった。
普段の君からは想像の付かない、意思の強さを秘めた綺麗な微笑みはきっと夏輝を想い、信じているからこそなのだろう。

「本当に…君は……」
「えっ?」
「いや。その笑顔が出るなら大丈夫だな。俺は雑誌の取材があるから行くから。」
「あ、はい。わざわざ有難うございました。」
「ああ。じゃあ……」
「はい、いってらっしゃい。神堂さん。」

君の笑顔に少し安心した俺は、小さく笑みを向けると君の隣から立ち去った。


その笑顔があるならまだ大丈夫。


――問題は夏輝、
か。















「あ、春。遅かったな。」
「………夏輝。」

取材の為のスタジオに到着すると、控え室には自販機の紙コップに口をつけながらこちらに目線を向ける夏輝が居た。

「お前がこんなギリギリに入るなんて珍しくない?」

君にあんな顔をさせてるようにはとても思えない普段通りの夏輝に俺は戸惑う。
俺の知る夏輝は君に何かあればどうにかしようと必死になって走り回るような男だ。君が元気がないのが判っているのに笑っていられる男なら俺は親友なんかやっていない。

「ああ、ちょっと寄る所があってな。」
「ふ〜ん。」
「聞かないのか?何処に寄ってきたのか。」
「…俺が聞かなきゃいけないような場所だったの?」

夏輝は手にしていた紙コップをテーブルに置くと探るような目で俺を見る。

「いや?お前の家に寄ったんだ。たまには一緒に現場に行くのもいいかと思ったんだが……」
「……………」

夏輝は俺の口から出た言葉を聞くと同時に目を逸らした。
口数の多くない俺は、自分の意思をあまり口にはしない。けれど付き合いの長い夏輝は拙い言葉や殆ど変化のない表情だけで俺の言いたい事を理解してしまう。

「……彼女、心配していた。」
「そっか。」
「……理由、あるんだろう?」
「ああ。」
「俺にも言えない事か?」

目を合わせないままの夏輝の方へ身体を向けた時だった。

「春やあの子が心配するような事は何もない。」

夏輝はきっぱりと言い切った。俺を睨むように見つめて、力強く。

「…どうしても俺だけの力でやりとげたい。後少しだから。」
「…………判った。」

俺はゆっくりと頷くとそれ以上聞く事をやめた。
夏輝はハッキリと言った。心配ないというならばそれはきっと真実だ。


















「夏輝さん、美代さんの為に絵を描いてたらしいんです。」
「絵?」
「はい。美代さんが好きだった景色を描きに、毎日スケッチに通ってその後に教えて頂いてた先生のアトリエに篭ってたって。」
「そうか。」

結果が判れば何という事もない、それはとても夏輝らしい理由だった。
美代は夏輝の中で特別な存在で。きっとこれから先も夏輝の心の何処かに必ず居るんだろう。
君もそれを判っているし、そんな優しい夏輝だから好きになったんだと思う。

「夏輝らしいな。」
「はい、とても。きっと夏輝さんにとって美代さんの事は自分だけでやり遂げたかったんだと思うから。」

けれど信じていても、どんなに好きでも不安になる事はどうしてもあるはずで。
誇らしげで幸せそうな心からの微笑みが君に戻ってきた事が本当に嬉しい。

「万が一浮気だったら、君をさらおうかと思っていた。」
「えっ?」
「………冗談だ。」

笑いながらこんな事が言えるのも、俺が夏輝と君の絆を信じているからだ。

夏輝と君。

俺と夏輝。

そして――君と、俺。


愛情と、友情と。そして言葉では表せない繋がりが俺達三人には必ずある。

だからきっと大丈夫。



夏輝と君と共に過ごす時間は俺にとって何よりも素晴らしい時間になるから――――――


一言頂けると泣いて喜びます♪



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ