倉庫@
□失ったもの
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荒れた大地。
時折砂を含んだ風が通り過ぎる。
一人の少女が泣いていた。
ぼやけた曇り空を見上げて声の限り泣いていた。
大粒の雫が乾いた大地に染み込んでいく。
ついさっきまで存在していた大切なものが消えてしまった。
その悲しみに耐え切れず、ただ哀しさに身を浸し泣いていた。
「ギル!!何してるの、こんな所で!!早く病院戻らないと・・・」
銀髪で紅い瞳を持つ青年が振り向く。
「ハンガリー・・」
その声にいつもの無駄な元気は無く、切なさを感じさせた。
予想しなかった哀しそうな顔を見てハンガリーは焦った。
「ちょっ、どうしたの!?なんか変だよ?」
その時、プロイセンの足の輪郭が、まるでノイズが走ったように揺れた。
「・・・ッ!!!」
「見ただろ?もう俺ダメかもしんねぇ・・」
プロイセンという国は最早事実上存在しない。
ドイツに吸収される形で急速にその力を失っている。
この世界からプロイセン≠ェ消えるのは時間の問題だった。
「ギル・・・」
「・・・くそッ・・なんで俺がッ・・・」
ブーツの輪郭が揺らぎ、光の粒子となって消えた。
ついに崩壊が始まったのだ。
「!!!!」
ハンガリーの脳裏に幼い頃の記憶が浮かぶ。
「小っちぇ時、お前自分のこと男だって思ってただろ?」
プロイセンも同じ事を考えていたらしく、懐かしそうに目を細めた。
「・・私あの時ギルの事好きだったのかなぁ・・・?」
膝までの形が完全に消えていた。
じわじわと無≠ェ浸食していく。
「ばッ・・!!!!今言うか!?」
「はは・・ねぇギル、好きだよ。今もずっと」
「!!!!・・・俺も好きだ・・」
腰の輪郭が揺らぎ、消えていく。
「もっと色々したかったぜ・・・一緒に飯食ったり・・したかったな」
「・・今更遅いよ」
言ってしまってから、自分が発した言葉の悲しさを感じた。
今まで我慢していた何かが切れた。
せきを切ったように涙が溢れてくる。
「嫌だよ・・・まだ別れたくないよぉ・・ずっと一緒に居たいよ・・・」
「そんなの俺だって・・・」
悔しそうに顔を歪ませる。
「これで終わりなんて・・そんなの嫌だよ」
「ハンガリー・・こっちに来い」
泣きながら近づくと抱きしめられた。
昔から知っている懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
「今から俺の言う事をしっかり聞け!!一つ目!!昔お前の靴隠したの本当は俺だった・・・マジごめん・・」
「今言わなくてもいいでしょ・・グスッ」
「二つ目!!俺が消えたらすぐにヴェストに知らせろ。今後の事を仕切ってくれるだろう」
「わかった」
真紅の瞳が揺れる。
「最後に・・・俺の事覚えてろよ」
「当たり前でしょ・・」
「絶対絶対忘れんなよ」
「うん」
「またいつか会いにいくから・・・待ってろよ」
「ずっと待ってる」
残っている体の輪郭全てが揺れる。
今にも崩壊しそうな揺れ方。
ハンガリーは涙を拭き、もう二度と見れないだろうその姿を目に焼き付けた。
右腕でハンガリーを引き寄せる。
乱暴に抱きしめて呟いた。
「愛してる」
かすれた声。
紅い目から涙が一筋流れる。
時が止まった気がした。
銀髪が風にそよぐ。
静かに口づけた。
涙の味がした。
「じゃあな」
微笑んだ後、確かにそう告げた。
全てが消えた。
光となって。
全てが消えた。
虚無感。
悲しみ。
哀しみ。
寂しさ。
後悔。
次々と襲ってくる感情。
涙が止まらない。
叶わない夢ばかりが頭に浮かぶ。
「ギル・・ベルト・・」
名前を呼んでも返ってこない返事。
どこへいったの
かえってきてよ