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□嘘だと思っていたかった
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放課後の部活動。


もう9月半ばだというのに、蒸し暑さが部屋に充満していた。
校庭からバットで球を打つ音が聞こえてくる。

俺と健二は平穏が戻ったozの整備アルバイトに精を出していた。


「佐久間ぁ」

「何」

「売店でアイス買ってきて」

「それくらい自分で行けよ」


本当にコイツが人類の未来を賭けて戦ったのかと疑いたくなる。
売店に行くのも面倒くさがる奴なのに。

画面の中にいる二次元サルが溜息を吐いた。


「なぁ佐久間」

「今度は何。またアイス?」

「違うって」

「じゃあ何だよ」

「・・・やっぱ何でもない」


コイツが上田から帰ってきて、変わった事が一つ。


俺の目を見て話さないのだ。
絶対おかしい。
何があったんだよ。


「佐久間」

「だから何だよ」

「・・相談、していい?」


珍しい。
こんな事今まで無かった。

やっぱりおかしい。



「何かあった?」

「絶対、誰にも言うなよ」

「あぁ」

「絶対だよ」

「うん」

「言ったら天パ黒焦げにするから」

「言わないって」



暫く間が空いた。

数分後、健二が口を開いた。

ぼそっと呟く。










「僕、佳主馬君の事が好きかもしれない」









はい?

今、何て?

思わず健二を見ると、俯いていた。
表情が見えない。




「僕どうしたらいいんだろ」


いやそれ俺の台詞だろ。



佳主馬君って確かキングカズマの中の人、だったよな。


分かりきっている事を聞き返す。


「その子さ・・男だろ」

「うん」




冗談キツいよ。




「嘘だろ?」

「本当」




・・・マジかよ。



「で、相談なんだけど」


あーもう相談どころじゃないよ。

頭痛いし。




熱を含んだ風が微かに吹いている。


何故かこのまま時が止まればいいのに、なんて思った。












「・・・キスってした事ある?」



「は?」


何故それを聞く。
全然話が繋がらない。


・・・まさか。






「練習、したいんだけど」






ええええ。

俺の知ってる健二はこんな奴じゃない。

こんな・・奴じゃ・・。




健二がおもむろに立ち上がり、窓の側に立つ。

ブラインドを閉めると一気に暗くなった。



続いてパソコンの画面を切ると、お互いの顔さえ見えなくなった。


でも、奴の顔が近いのは分かる。


「ちょっ・・ちょっと待って健二君」

「何?」


俺の眼鏡を外そうとしている健二の手が止まる。


「何で俺?練習なら他にも相手いるじゃん。夏輝先輩とか」

「俺はお前がいいんだよ」


意味分かんねぇ!

大体俺は男だ、と言いかけたところで。










キスされた。









「ッ、」





唇が押し付けられる。


すぐに離れた。






「はっ・・・」


息遣いが荒くなる。






「何、すんだよ」

「ごめん」



気まずい沈黙。




俺は驚きとかそんなの通り越して冷静だった。





少し意地悪してやろうと思って、言ってやった。




「責任取れよ。俺、初めてだったから」





今度は健二が驚く番だ。



「ごめん!佐久間がまさか初めてとか思ってなくて・・」



頭を下げられた。


初めてとか思ってなくて、なんて失礼な奴だな。
図星だけど。

この際どうでもいい。




俺も本当に責任とってくれ、なんて思ってなかったのですぐに撤回した。


「嘘。初めてなんて嘘だから。」

「え?」

「お前本当下手だな。佳主馬君に厭きられるよ」

「・・・」

「練習、してやろうか」




あれ?

何言っちゃってんの俺。



みるみるうちに健二の顔が輝く。



「本当に?佐久間・・お前いい奴だな」



満更でもなかったので黙っていた。









どうしよう。



健二ともっとキスしたい、なんて思ってしまった俺はやっぱりどこか壊れているんだ。






いずれ抑えられなくなるだろうこの気持ちに、俺はそっと蓋をした。


end
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