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□片道切符
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何故自分はここにいるのだろう

静まり返った列車内でアルフレッドは自問した。
外は一面、雪野原。
振りつづける白銀はとどまる事を知らない。
古びた木枠に頬杖をついてぼんやりと眺めた。

「何か食べる?ジョーンズ君」
「No, thank you.毒でも入っていたらたまったものじゃないからね」

隣でものを食べる気配がしたが、アルフレッドは窓に視線を向けたまま動かずにいた。
手のひらの紙切れを強く握り締める。

「……何が楽しくてイヴァンなんかとシベリアに……」
「君が飛行機のチケット手配忘れたのが悪いんだよ。会議があるって秘書から聞いてなかった?」

トンネルに入った。
景色が闇に呑まれる。

「だからって、君まで列車で行くことないじゃないか」
「僕の勝手だよ」
「ほんとに我がままなんだね」
「国家の存在が最優先。予算や個人なんてものは二の次」
「まるでナショナリズムの権化だな」
「ふふ、社会主義だからね。何かと便利だよ。
君のとこも大統領代わったくらいで浮かれてないでさっさと移行しちゃえばいのに」
「検討しておくよ、ヴァーニャ」

まだトンネルを出ない。
漆黒に自身の顔が映る。

「ねぇ、ジョーンズ君」

呼ばれ、振り向いた瞬間、眼鏡が床に落下した。
視界が遮断される。

目隠しされた。

「……何の真似だい」
「少し黙って」

静寂。
列車が軋む。

「わざとでしょ」
「え?」
「わざと飛行機、手配しなかったでしょ」
「何を、」
「僕に逢いたかった。違う?」
「違うっ。そんな、有り得ないだろ、チケットは失くしただけだ、決して」

突然、唇を押しつけられた。

「……っ、」

力を込めて殴る。

手ごたえと共に視界が開けた。
赤く腫れた頬を押さえてイヴァンが立ち上がる。

「酷いなぁ、せっかく君が」
「大っ嫌い。大っ嫌いだよ、イヴァン」

アルフレッドは思いきりイヴァンを睨みつけると少し離れた座席に一人で座った。
同時に、トンネルを出た。
純白の大地。

ぽつりと声がした。

「…………もうすぐ、着くよ」

モスクワまであと2km。


end
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