log2

□溺れた金魚
1ページ/2ページ




ごぽごぽと水槽を遊弋する三匹の金魚に、
ピーターの目は釘付けになっていた。

「これ、どこで買ってきたんですか」

昨日までは無かったガラスの箱を指差しティノが聞く。
新聞を読んでいたベールヴァルドは僅かに顔をあげて、

「……店」

と至極当たり前の様な返事を返し再び視線を新聞に戻した。

「すごいですよ、ママ。石から酸素が出てるです」
「え?あぁ、エアーポンプのこと。それよりシー君、お魚見てご覧。綺麗だよ」
「フィン、朝飯……」
「ああ、ごめんなさいスーさん、すぐ作りますね」

優雅に遊弋する三匹の魚は虚ろな黒い瞳をぎょろりと回してみせた。



少し遅めの朝ご飯を食べた後、ピーターはベールヴァルドと餌やりをした。
ぱらぱらと茶色い粉を水面に振り掛けるとたちまち魚が集まってくる。

「こんなの食っておいしいですかね」
「んー……食べてるから美味しいんじゃないかな」

一匹、体格の大きな金魚が餌に目もくれず悠々と泳いでいた。
一番小さな金魚が食べ終わってから水面に上がり自分の分を食べる。

「ママ、このさかな優しいですよ」
「ほんとだ。まるで家族みたいだね」

ベールヴァルドは冷たくなったコーヒーを口に含んだ。

家族。
それが昔からの夢だった。
温かい家庭を築くのが。

自分は今こうして幸せに暮らしている。
そのことが何より嬉しくて、同時に怖かった。


「でもママ、こいつら本当の親子じゃないですよ」


そうなのだ。
自分達は、本物の家族ではない。
幾ら愛情を注いでも決して家族にはなれない。

『魚を飼う』と言うが本当は飼っているのでもなんでもない。
ただ、飼っているつもり、なのだ。

支配に似ているが何でもないことだった。
そんなこと気づきたくなどなかったのに。

「でも仲良くしてくれてよかったね。さぁ今日は車洗いでもしようか」
「はいですよっ」
「あれ、どうしましたスーさん。顔色悪いですよ」

くりくりと大きな瞳が忙しなく動く。

ただその色は澱んで曇って何も見えていないかのように虚空を見つめて、
ぶくぶく泡を吹きながらくるくる水底へ沈んで、





end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ