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□浴槽
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浴槽は狭く、私達二人がやっと入れる程の大きさだった。
無機質なタイルの冷たさが肌を突き刺す。
あまりに狭いので互いの息遣いが間近で感じられるほどで少し息苦しかった。

「菊くん」
「はい」
「寒い?」
「いえ、大丈夫です」

ぽつぽつと会話をしながら、模索する。
やわらかな輪郭が欲望を抑えきれずに曲がる。

時々、私達はこうして水のない浴槽に二人で入る。
身体と身体を触れ合わせて愛を確かめる。
外から見ればさぞ滑稽に見えるだろう。
だが私達にとってこれは一つの愛情表現であり、一種の快楽でさえあった。

「菊くん、好きだよ」
「私も、」

唇を首筋に這わせる。
ぬらりと唾液が付着した。
指で擦ると爪にも唾液が付着した。

遥か高いところにある窓から桃色の光が差し込む。
薄暗い浴槽にも光は差込み、彼の銀髪を濡らした。
光に透けて琥珀に見えた気がする。

大柄な身体で抱え込むように抱きしめられた。
唇にキスされたあと、解放された。

「そろそろ出ようか」
「いやですよ」

ずっと
触れていたい。

この浴槽みたいに
中身の無い愛でもいい。


触れていられれば


など要らない

欲しいものは、

酸素

でも



でも
なく


ただ「がらんどうの愛をください」



end
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