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□ラピスラズリな嘘
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「ラピス・ラズリには毒があるんだって」


彼は、きわめて嬉しそうな顔でそう言った。


「粉末にして、飲むと死んじゃうんだよ」


そういうと、何かきらきらしたものを俺の紅茶に注ぎ込んだ。
カップの中を覗いてみると、底の方にきらめきが見えた。


「飲んでよ」


俺はためらいも無くカップを唇につけた。
ミルクティー独特の、あまい残像が溶けてゆく。

カリ、とラピス・ラズリが歯にあたった。
砕けない。
いっそ、飲み込んでしまえ。


「飲んだ?」

「ああ」

「美味しい?」

「味は無い」

「楽しかったよ、今まで」

「そうか」

「ありがとう、ルート」

「何?」

「だって、もうすぐしんじゃうでしょ」

「誰が」

「ルートと俺」


する、と細い腕が俺の首に絡まった。


「最期のキス、していいかな」

「ああ」


唇があたる。
彼の舌はターコイズの色をしていた。


「お前も飲んだだろう」

「何を?」

「ラピス……何とか」

「うん」

「馬鹿だ」

「二人で死にたかったから」


腕を絡ませたまま、彼は死んだ。
髪を触っても起きる気配はしない。


「そろそろ晩飯の準備をしなければ」

「……」

「おい、起きろ」

「……」

「本当に死んだのか?」

「俺は死んだよ」

「さっさと退け。立てない」

「あ、ごめん」


立ち上がり、台所へ行こうとする俺の背中に飛び乗ってきた。


「生きてるね、俺達」

「そうだな」

「ごめん、あれ嘘」

「何故嘘をついた?」


彼はつぶやいた。



「だって、ルートとキスしたかったから」

end
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