log2

□左心室
1ページ/2ページ







5分前口の中にほうりこんだ苺味の飴玉は、ただの砂糖水と化していた。

甘い焦躁と共に蹴り上げたくなるようないらつきに苛まれる。


甘いものは苦手だ、て言ったろ。なんて言い訳を吐き捨てながら菊の手を握った。
菊もそれが謝る態度かと言いたくなるような面構えでそれはすみませんでしたと滔々と言ってのける。
体力を消耗した後にはやはり糖分がよろしいのではないかと思いまして。
そんなことどうでもいいよバカ。



窓から見える空は真っ赤に染め上げられていた。
溢れ出るほとぼりが冷めたあとの何とも言えない虚無感を見事に表している東天紅だった。



俺は微かに溜息を吐き砂糖水を飲みこむ。
液体になった飴が空っぽの胃に落ちた。


握った手は相変わらず熱い。
血管がどくんどくんと波打っている。



生と死はいつも裏表になっているとどこかで聞いた。
そんなわけあるか馬鹿野朗。
俺たちは生きるばかりだ。



血管をたどる。手首から肘。肘から肩。
そして肩から心臓。
菊の胸に耳を押しあてると、止まることを知らない心臓の音が鼓膜に響いた。
何を、と言いかけた菊の唇を俺の唇でふさいでやる。



窓から差しこむ紅い光が俺と菊の身体を照らし出し燃えあがらせた。



とくん、とくんと囁く声。



赤に溢れた部屋。



味蕾に残在する飴の香り。



全てが合わさり、溶けあい、絡みあって錯落すると、そこはもう左心室だった。






とくん、とくん、




end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ