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□第五章
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エリザベータは苛ついていた。
朝八時に出勤して、先程解放されたのが十一時。
労働基準法に違反している。


人もまばらな電車に揺られ、コーポ前の駅で降りる。
302号室の扉を開け、鞄を放り出した。
堅苦しいスーツを脱ぎ、シャワールームへ直行する。
汗を流しさっぱりしたところで、栄養ドリンクを飲み干した。
楽な部屋着に着替え、部屋を出る。
亀裂の入った300号室のドアをノックした。

「ギルベルトぉー」

すぐに扉が開く。

「……エリザ」
「何かお菓子ない?コンビニまで行くのめんどくさいのよ」

幾分綺麗に見える部屋に二人で座り込んだ。
気のせいか普段よりギルベルトが大人しい。

「何かあったの?」
「……」

三角座りで何かを考えている。
やがてぼそっと呟いた。

「ローデリヒって昔ピアニストだったのか?」

エリザベータは危うく飲みかけのコーラを噴出しそうになった。

「そ、そうだけど……てか何であんたが知ってんの?」
「フランシスから聞いた」

気まずい沈黙が訪れた。
しばらくして再びギルベルトが口を開いた。

「あいつがピアニストを辞めた四年前、何かあったのか?」

ついに来た。
エリザベータは息を飲んだ。
きちんと姿勢を正してギルベルトを見つめる。

「ギル」
「何だよ」
「よく聞いて」

真剣な瞳が揺らぐ。

「このアパートに四年以上前から住んでる人だけが知ってる話よ。っていってもあんた以外みんな四年以上前から住んでるんだけど」
「だから何だよ」

一つため息を吐いて、エリザベータは続けた。

「今からちょうど四年前の六月。アパート前の交差点あるでしょう?あそこで大事故が起きたの」
「……!」

思わずギルベルトは息を飲んだ。

「事故?」
「えぇ。信号無視のトラックが突っ込んできて……、あれは酷かったわ」

ギルベルトが横から口を挟む。

「でも、それとローデリヒがピアニスト辞めた事とどこが関係してんだよ」

エリザベータは何も言わずうつむいた。
微かに手が震えている。

「……もしかして、」
「そう、そのもしかして≠諱v

顔をあげたエリザベータは悲しそうに言った。




「事故に遭ったのは、ローデリヒさんよ」
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