◇YGO story 頂き物


□雪の果て
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「……香炉峰の雪、か」
座敷に持ち込んだ七輪の上、なかなか膨らまない餅を突いていた遊戯はそれを聞くと、徐に立ち上がり窓に歩み寄った。たん、と小気味良い音と共に障子が開く。
「生憎、簾ではございませんが」
世界は鮮やかに、白かった。



こんな日まで来なくてもいいのに。遊戯は背伸びをして暗い茶色の髪から雪を払いながら、そう笑った。「…小降りだったろう、」「はいはい、空からはな」「……」
不機嫌も著なその顔についた水滴も丁寧に拭き取りつつ。
長い道則を傘一本で降る雪と格闘してきた瀬人は、勝利間近で屋根から滑り落ちてきたそれの餌食とな
ったのである。しかも遊戯の目の前で。
正確に言えば、早く会いたいとばかりに凍り付いた戸を力任せに引いた衝撃故。
「だーかーら!……さっきから謝ってるだろ」
遊戯が。
言い訳はすれど、風炉を沸かして着替えを渡し、一人ならば我慢するところ部屋を暖めてこうして軽食まで用意してやったのだ、少しは許してくれても良い気がする。
「うぅ寒ッ……さてと、餅はどう…」
「遊戯、」
当然のことながら遠慮なく流れ込んでくる寒気に疎む身体を背後から抱きしめられ、逃避は叶わなかった。遊戯は頬を膨らませながら回された腕をぺちぺちと叩いて抗議する。
「何だよいきなり。寒いって言って…」
「お前に漢詩の素養があるとは知らなかったぞ」
「かんしぃ?
語尾の上がりがその否定を物語っている。瀬人は おや、と首を傾げた。だがよくよく考えてみれば不自然な話ではあるのだ、遊戯は漢字すらまともに書くことはおろか読みすらも怪しいのだから。
素養の前段階ではないかと思い直しながらも問う。

「香炉峰の雪は簾を掲げて見る、唐の白居易の詩だろう」
「…あぁ、そういや元はそうだったな。でもオレが知ってるのは枕草子の方だぜ」

「ほう?それにしても………そういう教育なのか?」
『春はあけぼの』の有名な件ではなく、その部分を引用し見事に応用して見せたことに舌を巻かざるを得ない。多くの客(当然その中には知識人もいるだろう)を取る天神という位からすればそれくらいの教養の片鱗を示しても当たり前ナノかもしれないがその為だとしたら少しだけ悲しいような気もした。何となく抱き締める力を強くすると、遊戯はきょとんとした表情を見上げてくる。
「いや、作法とか芸は習うけど今のは全部獏良が教えてくれたから」
「了殿が?」
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