読み物(漫才)

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ぼくをすっぽりと抱え込むその場所から何とか逃れようと慌ててお礼を言う。



だから、頼むから離してくれ‐‐‐



耳が熱い。心臓もおかしいくらいに早鐘を打っていた。



秋本は腕の中でじたばたしているぼくの髪を、関節の節々のはっきりしてきた男の掌に成りつつあるそれで、ぐしゃりと掻き回す。



「大事なジュリエットに怪我でもさしてしもたら大変じゃ。」



ふっと笑ったその表情が妙に大人っぽくて、胸がギュッと苦しくなる。




おまえ…卑怯だよ。



そんな顔しないでくれ‐‐‐



ぼくは自分だけが置いて行かれそうな焦りにも似た感覚に囚われ、秋本の両頬に手を伸ばす。



節張ってきた掌とは、とても呼べない滑らかな指先が秋本の両頬を捕らえた。



「あ…ゆむ?」



掠れた声が不思議そうにぼくの名を紡ぐ。


「ばかっ!ぼくは男なんだから少々怪我したっていいんだよ。」



むにぃと指先で秋本の両頬を摘まむ。



「あ…ゆむぅ。…いひゃ…い。」



止めてくれと懇願する秋本の情けない顔が子供っぽくて、ぼくはちょっぴり安心する。



「放してやるから、その前におまえの腕を解いてくれ。」



「けちぃ〜。」



渋々といった様子で漸く腕を解いた秋本が、痛そうに自分の頬を擦る。



秋本の温もりが残る身体を抱え、ぼくは可笑しくって、クスクスと声に出して笑っていた。



秋本も、吊られて笑っていた。




秋本…頼むから、あんまり急いで大人になるなよ。



おまえの急激な変化にぼくは戸惑って、どうしたらいいのか分からなくなるんだ。


秋本の好意の意味も、それに対する対応もまだ掴みきれない。


普通じゃないと、切り捨てられる程軽いものじゃないのは判っているんだ。


でも。



‐‐‐まだ暫くはこのままで居たい…



幼さを残すぼくのココロはまだ蕾が硬く、花を咲かすには時間が必要だから‐‐‐




お願いだから、もう少し待っててくれ‐‐‐








END






あとがき



え〜と、とりあえず中3の冬位の話のつもりです。

まだ二人は出来上がってません(笑)

その内、出来上がる過程の話も書きたい気持ちはありますので、気長にお付き合い頂けたら幸いです。
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