お話
□愛し人
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「もとちか、」
授業が終わり、皆それぞれ部活や帰宅で教室を去って行く中、
ぼんやりと窓からグラウンドを眺める元親に声をかける。
「もとちか」
気付かなかったのか二度目でやっとこちらを向いた。
それだけの事なのに嬉しくて頬を緩ませると、またフイと視線を反らされる。
元親の恋人だった佐助の死により、
元親は、変わった。
いや、変わったというよりは生気がない。ゾンビの様に生きているのに死んでいる、そんな表現が1番合っている気がする。
大切な人を失っても、一度はドン底まで落ちるだろうが元親は強い。悲しみには負けない。
でも、佐助は、そんな強さをへし折ってしまう程に酷い死に様だったらしい。
自転車とトラックの衝突事故だと言う事は聞いているが、詳しい事はわからない。
だが、元親はいつも佐助と一緒に帰っていた。
目の前で事故が起きたんだ。
いつもアニキアニキと慕われてそれに答え明るく笑うきらきらとした表情も、いつも皆に囲まれ嫌われる事のないおおらかで頼れる性格も、俺の前でしか見せない照れ臭そうな姿も、
みんな、みんな、なりをひそめてしまった。
笑う事もなくなりただ無機質だった。
そうなれば自然と皆は離れてゆく。
最初は心配していた者も、無機質すぎるその姿に更に熱くなる者もいたが大体の者は次第と冷めていき、今では昔に比べ、ほとんど元親に話し掛ける者はいなくなった。
寂しがり屋な元親だ、きっと寂しいだろうに元親も同じ様に話し掛けはしなかった。
恋人を失った穴はこんなにも深く暗く、痛々しい。
途切れる事なく血を流し続けるそれを止めないといけない。
だから、
「元親せんぱい、好きだ。」
俺が止めてやる。
元親の為と思う事で自分のこの行為を正当化しようとしている事は分かっている。それが、まだ佐助を想い続け傷を広げる元親には酷い事であるという事も。
だけど、そうしないと、俺が潰されそうだ。
苦しくて、苦しくて、辛いんだ。
なんて、勝手なんだろう。
唯一、生涯守りたいと思った相手なのに。
自分のせいで更に血を流す事になる。
「…伊達。」
ぽつりと呼ばれた名前に、視線に、心を見透かされそうな気がして、ごまかす様に手を握り、引いて歩き出した。
END
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