お話

□☆いまとむかし
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政宗はどうやらコーヒーが好きらしい。
俺には苦いだけのあんなものの何処が美味いのか分からないが、政宗を見ているとどうやらその苦味が美味く感じるらしい。
政宗に直接聞いてみたいが、聞いた所であいつのことだ、お前子供だな、と笑われる気がしてなかなか聞けない。いや、確実に笑われそうだ。
嗚呼、良いさ良いさ。俺には甘味がある。
わざわざ苦い物はうけつけないという人間の本能に逆らわなくても良い。

と、思ってコーヒーだけは飲むものかと半ば意地で目をそらし続けていたが、

(時の流れって怖いな…。)

今では政宗の味覚が伝染したのかコーヒーを飲むことが最早日課と化していた。

「どうしたんだ?元親、」

いや、

「何でもねえよ。ちょっと昔のこと思い出してただけだ」

「ふーん?
なあ元親、昔と言えば俺達が出会った頃の事、覚えているか?」

政宗と飲む、という行為が日課と化しているんだ。

「覚えてねえよそんな昔のこと。何年前だと思ってんだ?」

「はは、俺も全然覚えてねえ。」

「なんだそりゃ。」

二人顔を合わせながら笑いあう。
笑う表情を見てふと昔の政宗を思い出した。
昔よりずっと輪郭も仕草も体格も全てが大人っぽくなって、以前には無かった大人の色気ってやつが出てる気がする。背だってぐんぐん伸びて、昔は10cm以上差があったのに今ではぎりぎり俺の方が高いくらいだ。
中身も外見も段違いなほど成長している。

「元親、」

名を呼ばれたことで政宗の頬を撫でていることに気がついた。
嗚呼、見つめあう事で政宗の変わらないところを見つけた。
瞳だ、あの意思の強い切れ長の目は全く変わってない。
くすっと思わず笑うと、どう解釈したのかゆっくりと畳の上に押し倒される。
多少驚いたが拒む気も起きず好きな様にさせる。

「元親は、昔からほとんどかわらない。」

「そうか?」

「その銀の髪も、白い肌も、綺麗な瞳も、…嗚呼、体格は変わったな。小さくなった。」

「バカヤロウ、それはお前がデカくなったんだよ。」

髪、頬、目元、と順に優しい手つきで撫でてくるものだから、くすぐったくて小さく笑いながら言葉をつむぐ。

「Ah,そうか、」

「政、…っん」

聞いているのか聞いていないのか、判別するには難しい返事を返され、頬を撫でられたかと思うと唇を塞がれ言葉が途中で切られる。
開いたままの口に舌を入れられ、僅かに水音をたてながら舌同士が絡まる。

「ん、っ…ふ、」

ぼんやりと蕩け行く中、着流しの合わせを開かれ胸元を撫でられる感覚に身を震わせた。
唾液が飲みきれずあごを伝い始めた頃、やっと唇を開放される。
離れる唇同士に繋がる糸がぷつんと切れた。

「は、ぁ…こん、な三十路越えのガタイの良い男に盛るなんざ、やっぱりお前の事わかんねえ」

「愛しているから欲情する、それじゃいけねえのかよ。
歳とかガタイとか、んなもん関係ねえだろ。俺ァお前の中身は勿論、全てに惚れてんだからよ。お前が自分で嫌ってる紅い左目だって愛しい。」

愛しそうに微笑みながら頬を撫でる大きな手に自らの手を重ね擦り寄る。

「…はは、…お前だけだよ、そんなの」

「愛してる、元親、」

「…あぁ、俺も愛してる。」

視界がぼやけ、頬が濡れる感触がする。

嗚呼、情けない。
この歳になって泣いてしまってる。

「なあ、政宗、死ぬなよ、」

「それ、約束できると思ってんのかよ。
まあ、お前も、死なないでくれよ、」



((もしこいつが俺より先に死にやがったら))

(この竜が食らってやる)
(この鬼が食らってやる)


伊達政宗。
戦場にて討ち取られるまであと2日。


END
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