お話

□待たせる理由
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「あの、会長」

「Hey!脱字だ!今すぐ直せ!」

「会長ー。」

「何だよ!?」

「学年主任から、この書類に目を通して下さいとのことです」


ぎゃあぎゃあと廊下にいる俺にはっきり聞こえる程騒ぐ声が響く生徒会室。
忙しいなあ、と他人事のように思う。いや、他人だが。(なんか政宗が聞いたら怒りそう)

あ、また怒鳴り声が聞こえた。
どうして生徒会長になったのかと、ふと疑問に思う。
政宗はこういう面倒臭い事は嫌いなはずだ。
一旦そう思うと無駄とは分かっていながら頭は考える事をやめない。
生徒会長をやっても政宗は頭が良いから推薦で進学出来るはずなのに。クソ、自分で言って腹立った。

うーん、と授業の時よりも頭を回転させてみる。が、

(やっぱわかんねーなぁ…。)

元々分かり易そうで何を考えているか分からない奴だ。分からなくても仕方ない。(気になるけど)
もうやめた、と考える事をやめて壁にもたれて座り込むと今度はちらちらと腕時計を見てしまう。

17時30分…。

5時には終わる、と聞いていたが長引いているらしい。証拠に時折怒鳴り声が聞こえる。
待たされる事は別に嫌じゃない。嫌ではないが、

(…ちっと、寂しいなぁ。)

何処の乙女だ、と一人苦笑するもそれによって状況が変わる訳ではない。余計に寂しくなるだけ。
窓から夕日特有のオレンジの光が差し込む。
その光に視線を向けると寂しさの他に沸々とした何かが寂しさとマーブル模様を描きながら混じり合う。

「…遅ぇなあ。」

つい口に出た言葉。
自分でも驚く程落ち込んだ声に今度はため息をつく。と、

「何寂しそうにしてんだよ。」

頭上から聞こえる聞き覚えのある声と、オレンジの光より色濃い、自分を覆うアイツの影。

「政宗!」

バッ、と効果音がつきそうな程勢い良く顔をあげるとそこには今の今まで待ち焦がれた政宗の姿。嬉しくて頬がゆるゆるに緩むのが分かる。(俺マジで女みたい)

「待たせたな、honey。」

いつもなら咎めるその呼び方。
けど今はそれに構ってる暇はない。今は政宗との会話が最優先だ。



「なあ政宗、」

「ん?」

夕日がだんだん姿を隠し、代わりにうっすらと暗くなってくる頃。ぽつぽつと言葉を交わしながら二人並んで帰路についていた。
そういえば、と待っている時に考えていた事を思い出す。

「なんでお前生徒会長になったんだよ、」

「Ah…?」

しまった。
この聞き方じゃまるで、本当に女のように構われなかったからって拗ねてるみたいだ。

「ある意味楽しいからな。」

「…ある意味?」

熱い顔を隠すように俯くと、くくっと笑われた。(殴りてぇ。)
なんだよそれ、と聞き返すと、

「じゃあヒントだ。
初めてデートした時俺30分遅れたよな、」

「え?あ、うん、」

何故今その話をするんだ。
疑問に思いながらもヒントに耳を傾け真剣に聞く。

「その時お前は怒ってなかったろ?」

「多分、」

「それがヒントだ」

「はぁ?わかんねーよ!」

「せいぜい悩め、考えろ」

真剣に聞いた俺が馬鹿だった。絶対に遊んでる。
けれど俺の意思とは関係無く無駄に素直な俺の脳は考え始める。
そのままの意味か、頓知のようなものか、
もし後者なら絶対に分からない自信がある。チクショウ。
うーん、と頭を悩ませていると時間切れ、と言って耳元で答えを囁いてくる。
瞬間。

「なああっ!?」

顔が沸騰するんじゃないかってくらい熱くなった。

もう、今日は目を見て話せない。この馬鹿。




(正解は、お前を待たせて時間置いてから顔見せた時、堪らなく嬉しそうにするのが、可愛いから。)


END
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