其他
□夢か現か。
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「アヤたん、」
「何だ。」
「…なんでもない」
「なら呼ぶな。」
ぎゅう、と目の前のうそみたいに冷たい体の腹にまわした腕に少しだけ力を入れる。
今日のアヤナミはどうもおかしい。
いつもなら事が終わり、シャワーを浴びた後、何を言ってもすぐに軍服を身に纏い残った仕事を始めるかヒュウガを追い出し睡眠を取るかのヒュウガにとってはアレな二択、なはずなのだが、
何の気紛れか今日はシャワーの後、自分の要求を素直に飲み込みベッドに二人並んでアヤナミを後ろから抱きしめる形で寝転んでいる。
元々体温が低いからかアヤナミは裸で居る事を嫌うのに今日はお互い何も身に纏わず、というおまけつきで。
(ホント、なんでだろう。)
聞きたい、そう思うが一度聞いたら腹を手加減無しに肘で殴られたのが数10分前なので流石に怖くて聞けない。心なしかまだ痛みも引かない。
誤魔化す様に目の前にあるアヤナミの首筋に顎を置いたり色素の薄い髪を弄ったり頬を撫でたりするも反応も、視線も、何一つ返ってこない。
いつもなら下手すれば数発は殴られ一瞬目の前が真っ暗になってしまっても仕方の無いその行動。
だが今は何をやっても無反応。
ヒュウガにさえ寝顔を見せないアヤナミだが、この状況ではそんなありえないことを考えざるをおえない。
だが寝てる?と聞くときちんと返事は返ってくる。
それに次第に恐怖を覚える様になってきた。
(後でまとめて…とか、ない、よね?)
十二分にありえるだろう事態を想像してみると、ふるりと寒々しく背筋が震える。
これ以上何もない様に、とそっと手を離そうとするが、
「…ヒュウガ、」
「な。え?」
その一言、いや、声色で動きがとまることになる。
相変わらず背を向けたままで身動き一つとってはいなかったが微妙ではあるが寂しさ、ととれる色を確かににじませていた。
(え、な、何?なにこれ、)
とりあえず未だ驚きと混乱の入り混じった少し裏返った声で小さく謝り再び手を元の位置に戻す。
そのまま暫く沈黙の間。
だがヒュウガの脳内は混乱でぎゃあぎゃあと騒いでいる。
分かりにくそうでずっと見ていると意外と分かりやすいアヤナミの行動。
それを熟知しているつもりだったが今回ばかりは熟知していると評価した自分を情けなく思う。
(…あれ、)
だが、ふと一つ小さな考えがぼんやりと浮かび先ほどまで考えていたことが見事に吹き飛び、脳内はいつもの静けさを取り戻す。
アヤナミにとってはあまりにもかけ離れた、だが今の状況にすっぽりと当て嵌まるその言葉。
「ねえアヤたん、もしかしてもしかしなくても、さ
俺に甘え…てるの?」
ゴスッ。
言い終わると同時に目の前に飛んできた肘。
避ける暇もスペースもなかったためモロに顔に受けるハメになる。
強烈なそれに色々と堪える。心なしか視界が潤んだ。
そこでアヤナミが一言。
「自惚れるものいい加減にしろ」
「………。」
返事をしなかった、出来なかった。
決して痛みのせいではない、アヤナミの言葉が動揺した様に一瞬震えた。
普通であれば気が付かないであろう程の小さなその変化。
だがアヤナミが解かせようとしない、腹に回ったままの腕も手伝ってその変化に気づくのと同時に、悟った。
(…うそ。これ本当?夢じゃないよね、)
「っアヤたん!」
抑えきれず体全体でぎゅうぎゅうと抱きつくと、やめろだとか離れろだとか聞こえるがそんな事は今はどうだって良い。
今はこっちが最優先。
(今日のアヤたんレアだよレア!激レア!)
ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、好きだよ、と囁くと一瞬ぐ、と息を詰めたのが分かった。
(何だろうこの可愛い生き物!)
「あ、どうしよう勃っちゃった」
「!、離れろ」
(たまにはヒュウガの体温が恋しくなることだってある。)
(たまには甘えられるのも悪くない、というかいつでも沢山甘えてください。)
END