GO万ヒット記念
□歴代拍手お礼文
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【夏の買い物】
夏。
ジリジリと照り付ける日差しがコンクリートに反射して、陽炎が立ち昇っている、稲妻町市街地のとある海が見える場所。
そこにある日、オレと姉さんは来ていた。
と、言っても泳ぎに来たワケじゃなくて、今日はお日さま園の買い出しのために、いつもとは違うお店に遠出した。
その帰りにたまたま海を見付けて、侵入禁止の鎖ギリギリまで降りてきて、現在に至る。
姉さんは少し嫌な顔をしたけど、靴に砂が入るのを気にしながら隣まで来てくれた。
「綺麗だね。でも…もう少し涼しかったらもっと良いんだけど」
「そうね。確か天気予報で、最高気温37度だと言っていたわ」
長い黒髪を払って、さらっと言う姉さん。
こっちは拭えるぐらい汗をかいているのに、姉さんはいつもと変わらないクールな表情。
姉さんは暑くないのかな。
それにしても37度か…。
「まあ、お出かけ日和と言った所かしらね。…それにしても、海なんて久しぶり」
オレのげんなりとした顔を見兼ねてか、姉さんが話を切り替えた。
どこか遠い目で海を見つめる姉さんに、オレは黙って頷く。
「父さんに連れて来てもらって以来だから…結構前だよね?」
「そうね。お父さんがエイリア石の研究を始めるまでは毎年来ていたから、丁度5年前になるわね」
「そっか…もう5年も前になるのか…」
5年、か。
静かに目を閉じると、今までの出来事が走馬灯のように蘇って来る。
凄いな、別に死ぬ前じゃなくても走馬灯って見えるんだ。
「…長いようで短かかったわね。色々あったから、短く感じるのは当たり前でしょうけど」
「そうだね、本当に色々あった」
父さんに戦うためのサッカーを教え込まれたこと。
父さんのために雷門イレブンを倒そうとしたこと。
そして、父さんとも、円堂くんたちとも解りあえたこと。
「でも…オレは、自分がしてきた事に何も後悔してないよ。姉さんは?」
そこまで言って、姉さんを振り返る。
姉さんはさっきと変わらず、海を見たままだった。
「……全て後悔していないとは言えないわ。でも…わたしは、お日さま園の皆にも、円堂くんたち雷門イレブンとも、…勿論あなたにも、会えて良かったと心から思っている」
そう言うと、姉さんはオレを見て優しく笑った。
「姉さん…」
じわっと視界がにじんだ。
目にゴミが、なんてバレバレの言い訳で急いで涙を拭う。
「…また来ましょう。今度はお日さま園の皆も一緒に」
「…えっ?」
オレが涙を拭いている間に、また海に視線を戻していた姉さんが、そう呟いた。
「今度だけじゃ無いわ。来年も、再来年も、ずっと」
姉さんの言った事が信じられなくて驚いていると、姉さんはもう一度オレの方を見た。
何となく後ろめたい気持ちになって、目を反らしてしまった。
「それはオレだって来たいよ。…でも、南雲や涼野はまだ帰ってきてないし…」
「わたしが責任もって来させます。口答えは一切許しません」
凛とする空気。
ジェネシスと雷門イレブンの監督として対峙した時と、同じ鋭い瞳。
「…でしょう、ヒロト?」
一転、そう笑い混じりに付け加えて、また優しい笑みに戻った。
一瞬呆気に取られたけど、笑っていい所なんだと確認してオレも笑う。
「そろそろ帰りましょうか」
クルッと後ろを向く姉さん。
同時に、オレに差し出される細い手。
「うん」
オレはその手を握った。
すると姉さんも握り返してくれる。
「…ありがとう、姉さん!」
オレ、姉さんの弟で良かった。
手の平から伝わる温度は気温よりも熱かったけど、全然気にならなかった。
2010年9月10日