GO万ヒット記念

□歴代拍手お礼文
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【春の寄り道】


「うおおっ!見ろよ風丸!すっげー桜!」

春。
暖かな心地好い風が吹く稲妻町市街地のとある場所。

買い物に行こうとしたオレは、偶然にも円堂と遭遇した。
行き先を告げると暇だから、と言う円堂が付き合う事になった。

買い物は無事終了。
しかし、帰り道の途中、何を思ったか冒険だ!などと言って円堂が道を外れて走り出した。
仕方なく後を追い、現在に至る。

「凄いな、稲妻町にもこんな場所あったのか」

手でひさしを作りどこまでも続く桃色を眺めていると、円堂が凄いスピードで横を通り抜けて行った。
円堂は飛んだり跳ねたりしながら楽しそうに走り回っていたが、しばらく経つと息を切らしながら戻ってきた。

「ハアッ…ハアッ…結構広かった…」

「だろうな。どう考えてもサッカーコートの何倍もあるし」

もしかしたら帝国学園の、全サッカーコートを合わせたのより広いかもしれないな。

「でもすっげー良い所だな。明日皆にも教えてやろうぜ!」

「そうだな。サッカー部の皆で花見ってのもいいかもな」

「おおっ!いいなそれ!」

大きくガッツポーズしてキラキラの笑顔をオレに向けてくる。
さっきまで息切れしてたとは思えない元気の良さだな。

「でもここ学校から結構距離が…痛っ…!」

その時、一際強い風が吹いた。

砂埃が巻き上げられて、それが直撃した。
咄嗟に目をつぶったけど遅くて、見事に砂の粒が入った。
結構痛くて、たまらずその場にうずくまってしまった。

「おい、大丈夫か?」

心配そうな円堂の声。
大丈夫、ととりあえず返事をして、すぐに顔を上げて立ち上がる。

何度も瞬きをしてうっすら目を開けると、条件反射で涙が流れてきた。
格好悪いからどうにかしたかったんだが、ちょっとした買い物の予定だったから、生憎涙を拭う物を何も持っていない。

取れるまで放っておくしかないか。

「…あ、おい!目開けろよ風丸!」

「え?今は無理…」

一生懸命砂粒と格闘しているのもお構い無し、といった感じで円堂がバシバシとオレの肩を叩いた。
まったく…何なんだよ。

「ホラ早く!桜が舞ってるんだよ!」

「桜…?っ!ホントだ…」

何とか全て流しきって目を開くと、目の前が桃色だった。
確か女子限定のキーパー技に『花吹雪』って技があったけど、それとは比べものにならないぐらいの量と美しさだ。

「綺麗だな!」

「ああ。綺麗だ…」

それしか言葉が出てこない。
こんな景色初めて見た。

「…風丸、動くな」

そんな美しい風景に見とれていた時、急に円堂が真面目な声と表情でそう言った。

「え?」

「いいから!」

「わ、分かったよ…」

ワケが分からないままオレはじっとつっ立って、円堂の動向を見守る。
すると円堂はオレの前に立つと、スッと顔に手を伸ばしてきた。

なんでだろう、心臓がドキドキしている。

「……取れた!」

「え?」

伸ばされた手はそのままオレの頭上に進んで、一瞬髪に触れられた感触がした後元に戻った。

「髪に付いてたぜ。ホラ」

得意げに見せられたのは一枚の桜の花びら。
多分さっきの風で付いたんだろう。

「なんだ、花びらか。ビックリした」

「ん?何だと思ったんだ?」

キョトンと首を傾げる円堂。
当たり前の反応だよな。
というか、何を期待してたんだオレは。

「いや、別に?それよりありがとな、円堂」

オレは円堂から花びらを受け取ると、フッと笑みこぼした。

さっきは皆で花見に来たいだなんて言ったけど、オレは別におまえと二人でもう一度来てもいいんだぞ?
むしろその方が…なんてな。


2010年9月10日
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