悠久の街相談所

□序章 始まりはどん底の帰り道
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「うぅ…やっぱ全滅だった…」

よろよろと力無く歩みを進める。
都会の華やかな雰囲気に似つかわしくないどんよりとした顔で歩く私。
すれ違う人達は楽しそうな顔して彼氏と歩いてる派手な女の子だったり、両手いっぱいの洋服の紙袋を重たそうにしてるかっこいいお姉さんだったり。

きっと皆悩みなんて無いんだろうな、なんてネガティブな感情が渦巻いていく。

「はぁ…へこむなぁ…」

初っ端からテンションどん底だけど始めまして。
私の名前は坂城千歳(さかき ちとせ)。
中学を卒業したばかりの15歳。
職業安定所通いの普通の女の子です。

え?この歳で職安所通いかって?
ちょっと長くなるけど聞いてくれる?

私の家は四男三女の九人家族。
今時珍しい大家族ってやつ。
当然普通のサラリーマンとパートタイマーの両親に私達七人を大学まで上げる余裕なんて無いから、下に行くにつれてそのしわよせが来る。

下から三番目の私はもうぎゅうぎゅうで、選択肢は義務教育のあと就職しかなかった。

で、どうせなら地元のド田舎じゃなくて都会の方が職種も沢山あってお給料もいいんじゃないかと思って、一大決心して上京したんだけど…結果はすでに報告した通り。
バイト先どころか明日のご飯さえ危ぶまれる事態になってるんだよね…。

「…やっぱり東京だからってダメなのかな?」

私は路地の入口に座り込んだ。
人一人が急に座ったってこの街は何も気にしない。
自分のちっぽけさが見に染みる。

「はぁ…」

中身が出るんじゃないかってぐらい大きくため息をついた。
すると鞄から振動が来た。
正体は勿論携帯電話だ。
一瞬無視しようと思ったんだけどそんなこと出来ないのよね、今のご時世。
画面を操作して受信メールの欄を開くとこんな文章が飛び出してきた。

『やっほぉ、ちとせん久しぶり!元気してる?
私はテニス部に入って毎日球拾いだよ(-_-#)
今度いつこっち帰って来れる?その時はめーるしてよね☆
パーッとカラオケにでも行こうよ(^0^)/』

楽しいって気持ちが全面から伝わるメール。
今の生活が輝いてるんだろうなって嫌でも解る。
私はまた一つため息をつくと、受信画面から返信画面に変えて文字を打っていく。

『久しぶり☆★そっか、テニス部に入ったんだ。
球拾い大変そうだけどまゆっちならすぐにコートで打てるってo(^-^)o
そっちには七月にならないと帰れないかな(>_<)
じゃ、またメールするね!バイバーイ♪♪』

中学時代に培った高速のメール打ちを済ますとまたため息をついた。
そしてひざに顔をうずめて目を閉じる。
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