黒子のバスケ短編
□青色の浸蝕
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委員会の仕事で、本を棚に戻すことを頼まれた。
私は今日は当番じゃなかったけど、他の人はみんな運動部で忙しいらしい。
何の部活にも入ってなかった私は、特に用事もないので仕事を引き受けた。
が、案外多いな。
それなりに厚みのある本を数冊抱え、棚の前に行く。
本をそれぞれの場所に戻しながら、青い太めの縁の眼鏡を押し上げた。
「えーっと、この本は…」
独りきりの図書室に、私の独り言は虚しく消えていく。
先生すらも出張ってどういうことだ。
一日ぐらい図書室閉館しても良いだろうが。
管理を任されている図書室を生徒に預けるなんて緩い先生にため息をこぼしながら、次の本の背表紙をみる。
そこには棚の番号が書かれているのだが、なんてことだ。
「げ、一番上かよ…」
私の身長じゃギリギリ届かない場所にある本だった。
つい口が汚くなってしまう。
「はぁ…。踏み台は…」
大きなため息を吐いた後踏み台を探すが、なぜか見あたらない。
「あ、そういえば…」
キョロキョロと首を動かした後、数十分前に訪れた生徒のことを思い出す。
『わりぃ名字、踏み台借りてく!』
いったい何に使うのかと問おうとしたが、風のように彼は去っていった。
必要にはならないだろうと安堵して忘れていたが、あぁ、本当になんてことだ。
まさか必要になるとは。
つか速く返しに来いよ。
と思ってもあの緩そうな男子生徒のことだ、きっと借りたことすら忘れているだろう。
あまり覚えていない彼の顔をぼんやりと思い出しながら、またため息を吐いた。
「仕方ないか…」
そう呟き、私は意を決し左腕の中の数冊の本をしっかりと抱え、右手で持っているこれから戻す予定の本に力を込めた。
「よっ………」
小さく上げた一応かけ声と同時に、足の指に力を入れて背伸びをする。
本を握る右腕はしっかりとのばして。
「……っ…」
ぷるぷると全身が震えるほど背伸びをしているにもかかわらず、棚には到底届かない。
どうせ中2からのびてねーよ。
自分の身長の低さに悲しみを覚えながら、しかし本を戻そうと全身を伸ばす私の姿はなんと滑稽だろうか。
図書室にだれも居なくて良かった。
「………はぁっ…」
一旦力を抜いて普通に立ち、無意識のうちに止めていた呼吸をする。
低い低いとは思ってたけど、まさかここまで低かったなんて。私の身長。
軽い絶望感に見回れつつも深く深呼吸をして再度チャレンジしようと決める。
冷静に考えれば届くはずないとわかっているのに、何故またやろうとする、私。
「よし…」
静かに気合いを入れて、私は再び背伸びをした。
最高位にあった本を右手に持ち、必死に腕を、足を、背中を伸ばす。
またぷるぷると震え出すが、そんなのはどうでも良い。
今は、私に屈辱を与えた本棚と本が憎くて、物相手にムキになっていた。
見てろよと誰に向かって言うわけでもなく呟いて、震えながらぐぐっと伸ばした。
私が掲げる本の先と棚では10cm程も間隔があるので、到底むりなのである。
そんなこと分かっていながらも右腕を伸ばし仕事を全うしようと些細なことにムキになっていると、
パシリ
「!!!」
私の手から本が離れ、棚の上に意図もたやすくおさめられた。
内心驚いたが、私の手から本を奪った人物は、肌の色ですぐに分かった。
爪先立ちをやめ足をしっかりと床に着けて右側を見る。
「青峰君……」
そこには、勝ち誇ったような笑みを浮かべた幼なじみが佇んでいた。
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